完済しない住宅ローンという選択~今の低金利を生かし住宅ローン控除が終わったら売却

2020年2月17日

完済したら老後資金が無くなるがどうしてもこの家に住みたい

住宅ローンは完済しなければ終わりません。

住宅ローンの定年退職時の残高は多すぎないですか?バランス感覚大事です

だったら、あえて終わらせないで売却してしまうことを前提に住宅ローンを借りるという選択肢について考えてみました。

  • 子どもが独立するまでの間≒現役時代に大きな家を住宅ローンで購入してに住む。
  • 子どもが独立したら≒定年退職時に家を売却して住宅ローンを完済して、小ぶりな賃貸に移る。

こういうプランです。

  1. 住宅ローン控除によって10年間は1%のキャッシュバックがあります。
  2. 今は特に変動金利が低金利であり、逆に利息が儲かるような状態です。
  3. ローン残高が多いうちは団信の生命保険が割安に受けられます。

特に当初の10年については住宅ローン控除がありますし、今の低金利の恩恵も得られますし、団信という厚い生命保険にもほぼ無料で加入できます。

しかし、そのツケは後半に払うことになるかもしれません。売却したときに売却価格で住宅ローンの残債を完済できなければ追加でお金を払って一括返済しなければならないというリスクを負います。

そこで老後資金を使い果たしてしまうと、老後破産へ一直線です。

逆に言えば、この後半のリスクを吸収できるお金を用意できるのなら、あえて完済しない住宅ローンを組むのもアリということです。

今日はそんなご相談者です。

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相談:どうしても今の幸せを優先したい

居住予定の家族の年齢と年収 夫45歳1000万+インセンティブ(外資)
妻48歳
長男13歳、次男10歳。
自己資金の額 諸経費を貯金の1000万円から支払う
物件価格 5000万円(近隣のなかでは土地面積も物件価格的にも高いです)
物件のタイプ 建売の新築庭付き戸建
4LDK2世帯可能駐車場2台(完成今年2月末)
借入予定額 5000万円
住宅ローン 毎月15万として定年まで2700万支払い、15年後に定年時のローン残高で売却できればそれでいいと思っています。
相談内容 仮に払えなくなれば売れる値段で売却しようと思ってます。それだけ子供が巣立つまで部屋を与えてやりたいし私が死んだら何か残せるものをと思っています。

こんな状況で本当に買ってしまっていいものか?と思いつつ、もう申し込んでしまいました。

タラレバで全く結構です。アドバイス頂けることだけでも非常にありがたいと思ってます。

読み物としてぜひ皆さんにも反面教師的にもお伝えしていただいて構いません。やはりどうしても向こう15年だけでも幸せが欲しいです。

負債はないかも知れませんが15年今の家に我慢して住みたくはありません。

たとえいい賃貸に出会えたとしても釘1つ打つのにためらう生活はもう避けたいです。これは今までの持ち物でもそうで、服や小物も新しいものをどうしても買いたい場合は今の物が売れたら買うと言うスタイルです。

損をしても構わないし売れなければしっかりと払い続けるつもりですし。親との二世帯化も考えた上での考えです。

どちらかの実家もまだ残ってますし最悪住むところには困らないかと思ってます。浅はかな考えでしょうか?何卒よろしくお願いします。

回答①:後半のリスクは高いです

住宅ローンで家を買うということは、現役時代にリスクを取って老後のリスクを減らすというものです。老後資金が貯められないような多額の住宅ローンであるならば、組むべきではありません。これが原則です。

こちら住宅ローンで家を買うということを、生涯収入と人生リスクの側面から整理したものです。

持ち家 現役時代 リタイア後
生涯収入 頭金と経費、420回ノーミスで続ける住宅ローンの元利均等返済額。 住居費の分は必要なくなるが年金は減る。
人生リスク 住宅ローンを払えなければ家を取り上げられ、ゼロスタートになる高リスク。 長生きしても住居費は必要無くなる。低リスク。
戦略 リタイヤ後の住居費がかからない分だけ、老後のリスクは減る。しかし年金のリスクは見えない。食費や維持費も払えなくなるリスクもゼロではない。

『完済しない』という考え方は、発想の転換だと思います。不動産の価値が右肩上がりに上がり続けていた時代には『土地ころがし』といった方法もあるにはありました。

しかし、これからということで考えると、土地の価格が上がることが期待できない時代です。ですから、売却することで損をしてしまう可能性が高いのです。

後半のリスクが高くなるでしょう。こちらもご一読ください。

住宅ローンを完済しないことを前提に家を買いたいなら生涯収入とリスクの配分を知るべし-千日のブログ

回答②:売却を前提とするなら疾病保障が無料で付帯するネット銀行の変動金利で最長35年借りるべし

売却時にいくらで売れるのか?については大きなリスクがあります。

その分、売却までの資金の余裕を享受して、貯金を多く貯めておくための方法がお勧めということになりますね。

以下の3つがポイントです。

  1. 住宅ローン控除の恩恵を最大に受けるために低金利の変動金利にする。
  2. 住宅ローン控除の恩恵を最大に受けるために最長の35年元利均等返済とする。
  3. 低金利で疾病保障が無料で付帯するネット銀行を利用する。

これらに適合する住宅ローンということになると、以下の二つになるでしょう。

低金利が売りのネット銀行の住宅ローンの中でも、疾病保障が無料で付帯する付加価値で差別化しているのが「住信SBIネット銀行」と「auじぶん銀行」です。ネット銀行の中でも低金利で、さらに病気になったらその後の住宅ローンがチャラ(又は50%)になる保険付きなんです。

どちらも変動金利0.457%という最低金利です。

住信SBIネット銀行全疾病保障 auじぶん銀行がん50%保障
精神障害等を除く全ての病気やケガで働けなくなったらローン返済がゼロ円になる。 6カ月の余命宣告をされたら住宅ローン残高がゼロ円になる。
8疾病で12カ月継続して働けなくなったらローン残高がゼロ円になる。 医師にガンと正式診断されたらその時点のローン残高が50%になる。
8疾病以外の病気やケガの場合でも入院により12カ月継続して働けなかったら、ローン残高がゼロ円になる。 入院などの条件なし。

ただし、ネット銀行は事務手数料が2.2%と高額です。そしてこの事務手数料は全額繰上げ返済によって返金されません。

これに対してリアル銀行の場合は事務手数料が安い代わりに保証料が必要となります。保証料は全額繰上げ返済で返金されます。つまり、金額が大きいうちに繰上げ返済するのであればリアル銀行で金利が低い銀行も検討に入れた方がよさそうですね。

リアル銀行の保証料型で変動金利の最安は現時点では三井住友信託銀行の0.525%です。

ではシミュレーションをしてみましょうか。

《前提条件》

  • 借入金額5000万円
  • 35年、元利均等返済、ボーナス払いなし

資金繰りのシミュレーション

(単位:円)

35年5000万円 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
毎月返済 128,844 130,345 -1,501
5年後残高 43,337,250 43,407,036 -69,786
10年後残高 36,520,564 36,638,803 -118,239
15年後残高 29,546,334 29,690,565 -144,231
住宅ローン控除 3,936,800 3,940,100 -3,300

そんなに大きな差は無いですね。5年後、10年後、15年後の残高というのは、二つの見方があります。

  • それぞれその時に売却したとしたらローン残高が幾ら残るか。
  • それぞれその時に金利が上がったとしたらそのリスクのボリュームがどれだけあるか。

というものです。

家賃よりも少ない支払で維持できます。金利が上がったとしても5年ルールと125%ルールがありますので、5年間はこの金額で変わりませんし、5年経過して上がっても125%までしか上がりません。

その代わり、ローン残高の減りが遅くなるということでリスクを負うことになります。

借入費用の比較シミュレーション

(単位:円)

35年5000万円 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
印紙 20,000 20,000 0
登録免許税 200,000 200,000 0
保証料 0 1,030,500 -1,030,500
事務手数料 1,080,000 32,400 1,047,600
合計 1,300,000 1,282,900 17,100

実際には上記以外に、司法書士への報酬がありますが、銀行によって差が出るものではないので省略しています。事務手数料か保証料かという違いがありますが、結局総額では大した差にはなっていないですね。

ただし、保証料の方は全額繰上げ返済によって返金があることで、差が出てきます。これを次の総支払額のシミュレーションで比較してみましょう。

総支払額のシミュレーション

10年後に全額繰上げ返済した場合と15年後に全額繰上げ返済した場合とで比較をしてみました。

10年後に一括返済する場合は三井住友信託銀行の方が9万6千円安く済みます。保証料の返金があるからです。

15年後に一括返済する場合は、ネット銀行の方が18万8千円安く済むという結果です。保証料の返金があっても金利の安さの方が上回るからです。

いずれにしても、支払総額でもそれほど大きな差にはならないという結果になりました。

ということは、疾病保障特約が付いている分だけネット銀行を選んでおいた方が明らかにお得ということになります。

10年後全額繰上げ返済

(単位:円)

10年後一括返済 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
借入費用 1,300,000 1,282,900 17,100
55歳まで返済額 15,461,280 15,641,400 -180,120
55歳残高 36,520,564 36,638,803 -118,239
住宅ローン控除 -3,936,800 -3,940,100 3,300
保証料払い戻し -374,600 374,600
合計 49,345,044 49,248,403 96,641

15年後全額繰上げ返済

(単位:円)

15年後一括返済 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
借入費用 1,300,000 1,282,900 17,100
60歳まで返済額 23,191,920 23,462,100 -270,180
60歳残高 29,546,334 29,690,565 -144,231
住宅ローン控除 -3,936,800 -3,940,100 3,300
保証料払い戻し -205,900 205,900
合計 50,101,454 50,289,565 -188,111

参考:完済して自分のものにするのであれば20年くらいが妥当

上記はあくまで、今の賃貸家賃と同じくらいの金額でこの家を維持し、要らなくなったら売却する前提の考え方です。

もしも、自分のものにする。確実な完済も視野に入れるということでしたら、住宅ローンの年数は20年くらいにしておくのがバランス的に良いと思います。

資金繰りと10年後、15年後の総支払額のシミュレーションを参考としてご提示しておきましょう。

《前提条件》

  • 借入金5000万円
  • 20年、元利均等返済、ボーナス払い無し

資金繰り面のシミュレーション

(単位:円)

20年5000万円 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
毎月返済 218,038 219,507 -1,469
5年後残高 37,925,039 37,987,692 -62,653
10年後残高 25,571,077 25,655,985 -84,908
15年後残高 12,931,618 12,996,344 -64,726
住宅ローン控除 3,506,000 3,510,600 -4,600

毎月の返済額は22万円弱ですね。手取り45万から50万ほどですので、贅沢をしなければ十分可能です。

各残高は、先ほどは売却するときに幾らで売れるか?という見方でしたが、完済の場合はそれぞれの時点で貯蓄しておかなければならない金額です。5年後、10年後に完済というのはありませんので、15年後の残高が目標ですね。

住宅ローン控除の恩恵は35年返済の場合よりも40万円ほど減ります。ローン残高の減るスピードが早くなるからです。

総支払額の比較シミュレーション

10年後と15年後で計算しました。10年後は無いと思いますけど、参考です。15年後に一括返済する場合、ネット銀行の方が支払は少なく済みますね。

10年後全額繰上げ返済

(単位:円)

10年後一括返済 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
借入費用 1,300,000 1,282,900 17,100
55歳まで返済額 26,164,560 26,340,840 -176,280
55歳残高 25,571,077 25,655,985 -84,908
住宅ローン控除 -3,506,000 -3,510,600 4,600
保証料払い戻し -239,513 239,513
合計 49,529,637 49,529,612 25

15年後全額繰上げ返済

(単位:円)

15年後一括返済 住信SBI/auじぶん銀行0.457% 三井住友信託
0.525%(保証料型)
差異
借入費用 1,300,000 1,282,900 17,100
60歳まで返済額 39,246,840 39,511,260 -264,420
60歳残高 12,931,618 12,996,344 -64,726
住宅ローン控除 -3,506,000 -3,510,600 4,600
保証料払い戻し -117,112 117,112
合計 49,972,458 50,162,792 -190,334

金利が上がった場合に幾ら繰上げ返済するか

完済を目標にするのであれば、金利が上がった際の繰上げ返済も考えておく必要があります。

下表は5000万円を0.5%変動金利で、20年元利均等返済にした場合を前提に作りました。

毎月返済額21万9千円を維持するために、それぞれ残りの期間で金利が上昇したら幾ら繰上げ返済するかという表です。

(単位:万円)

残期間 15年 10年
残高 3797 2562
0.5%→1.0%に上昇 138 63
0.5%→1.5%に上昇 269 124
0.5%→2.0%に上昇 394 182
0.5%→2.5%に上昇 513 239
0.5%→3.0%に上昇 626 254
0.5%→3.5%に上昇 734 348
0.5%→4.0%に上昇 837 399
0.5%→4.5%に上昇 935 449
0.5%→5.0%に上昇 1028 498

変動金利は今後5年~10年の間に上昇する可能性があると、個人的には考えています。今の基準金利である2.5%くらいまでは上がるとして、上記の太字の金額くらいは貯金として備えておく必要があると思います。

以上、参考になれば幸いです。

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