預貯金連動型住宅ローンの損益分岐点、いくら貯金すればいいの?

2018年10月20日

貯金した分だけ住宅ローンの金利がキャッシュバックされる特殊な住宅ローンのシミュレーション

東京スター銀行の預金連動型住宅ローンが有名ですけど、JAでも一部の地域で預金連動型の住宅ローンを出しています。このタイプの商品のメリットは大きく分けて2つあります。

  1. 自分の預金をそのままに、繰り上げ返済と同じ利息の節約効果がある。
  2. ローン残高が減らないので住宅ローン控除の恩恵も得られる。

繰上げ返済したら、当然のことながら貯金は減ります。繰上げ返済したお金は返ってきません。でも預金連動型住宅ローンなら、預金の元本の部分だけ利息がかからないということです。つまり、貯金を残したままで繰上げ返済したのと同じ利息の節約効果があります。

また、繰り上げ返済したら当然のことながらローン残高は減ります。住宅ローン控除はローン残高の1%相当の税金が返金されるというものですから、住宅ローン控除の恩恵も減ってしまいます。しかし預金連動型住宅ローンなら、ローン残高は減りませんよね。つまり住宅ローン控除の恩恵も減らないということです。

以上のようにとても魅力的な住宅ローンなんですけど、適用金利が少しお高めというデメリットがあります。

少しお高めな金利は、預金残高を増やすことによって減らせばいいですね。

じゃあどのくらい貯金すればいいの?

損益分岐点になる預金残高はいくら?

という疑問が出てくるのです。では今日のご相談者です。

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相談:JA貯金連動型住宅ローンで得する貯金額の損益分岐点は?

こんにちは。最近千日さんのブログを発見し、勉強させていただいております。

金融機関を2つに絞ったので、仮申請を申し込み、本申し込みの時にどちらが有利かで決定したいと思います。

夫年齢 40
夫の年収(万円) 不詳
妻年齢 不詳
妻の年収(万円) 専業主婦
共働き世帯年収(万円)
家の価格(万円) 2,000
住宅ローン(万円) 2,000
頭金(万円) 0

地銀の10年固定

保証金 390,000円  事務手数料 54,000円
地方銀行     10年固定金利 0.75%
10年固定が終了しても、店頭金利より1.82%マイナスで金利対応してくれるそうです

JAの貯金連動型住宅ローン

今後10年で、子供1人が2年後高校、5年後大学と進学し、2歳はなれた兄弟がおりますので
手元資金を残しながらのキャッシュバックに魅力を感じております

10年固定 0.85%+特約0.2%=0.95%

※ 特約とは、1つ目候補が金利上乗せなしで、がんと診断確定されたら、残債が0円になる
というものなので、同じ条件で特約をつけたいです。

保証料 現時点で不明 事務手数料 無料

幾ら貯金すれば有利になるか?

そこで、JAにいくら定期預金を預けつづけることができれば、地方銀行より有利になるでしょうか?

10年間は住宅ローン減税の恩恵を受ける、10年後に預けた定期預金の一部を繰り上げ返済に
あてたいと思っています。

因みに、地方銀行の変動金利は0.525%です。先に質問した固定の条件より変動金利の方が有利になる境界線があれば、合わせてご教示いただけたら大変うれしいです。どうぞよろしくお願い致します。

回答:貯金の割合だけ金利が安くなると考えると捗ります

ではお答えしていきます。預金連動型の住宅ローンは東京スター銀行が有名ですが、JAでもやっていたのですね。知りませんでした。

これ、ちょっと仕組みが複雑なのでシミュレーションが難しいので、ブログの記事にすることで多くの方の役に立つと思います。ありがとうございます。

では、その仕組みと考え方からご説明していきますね。

預金残高に応じて利息が返ってくる住宅ローンの仕組みと考え方

銀行に預金を預けていれば、その金額に対する住宅ローンの利息を返金する仕組みです。例えば2,000万円の住宅ローンを借りていて、500万円の預金があると、2,000万-500万=1,500万に対してだけ利息がかかるんです。

ですから、金利が4分の3になるということです。

例えば先ほどの例で金利が1%だったとしましょう。

普通であれば2,000万×1%=20万が利息ですよね。

それが1,500万×1%=15万の利息になるということです。あくまで元本が2,000万円ということで金利に換算すると2,000万×0.75%=15万という式にもできます。

 

幾らの貯金をすればどれだけ金利が安くなるか?の考え方

つまり、シミュレーションする場合は『ローン残高に対する預金の割合だけ金利が安くなる』というように考えれば、ザックリした計算が可能になります。

例の場合でいけば住宅ローン2,000万円に対する貯金500万円は4分の1です。金利は1%から4分の1安くなって0.75%となりましたよね。

今回のケースはこの二つの比較です。

  • 地方銀行の10年固定0.75%
  • JAの預金連動型の10年固定0.95%

両者の利息が同じになる貯金の額は以下の式で概ね計算できます。

1-(0.75÷0.95)=0.21

だいたい住宅ローン残高の5分の1の割合の貯金があれば、両者の利息は同じになります。

ただし、これは住宅ローンの返済によって元本が減ったら、それに合わせて常に5分の1になるように貯金も減らしていくという前提に立った場合の計算です。

普通はそんなことしませんよね?貯金はあくまで貯金ですから、住宅ローンの返済に応じて減らす必要など無いのです。なので、実際は5分の1よりも少ない割合の定期預金でも同じ利息になるでしょう。ここがシミュレーションを難しくしている一つ目のポイントです。

シミュレーションを難しくしているポイントは、もう一つあります。この利息のキャッシュバックが受けられるのは、住宅ローン残高の50%が上限なんです。つまり、貯金がそのまま変わらず500万だとして、住宅ローンの残高は返済によって減っていきますよね。

ローン残高が1,000万円未満になると、貯金の500万円満額の利息のキャッシュバックを受けられません。例えばローン残高が900万円になるとその50%の450万円が上限になるということです。

これも加味してシミュレーションする必要があるのです。

前置きはこの辺りにしてシミュレーションしていきましょう。

 

最初から最後まで上限の50%を維持し続けるケース

まずは常に最大のキャッシュバックを受ける場合のシミュレーションです。住宅ローンの借入が2,000万円ですからその50%の1,000万円を定期預金に預けます。

その条件下で以下の2つを比較しました。

  • 地方銀行の10年固定0.75%(その後は今の店頭金利2.475%から1.82%優遇で0.655%の変動金利)
  • JAの預金連動型の10年固定0.95%(その後は今の店頭金利2.47%から1.4%優遇に0.2%の特約を付けて1.275%の変動金利)

当初10年間の比較

(単位:円)

預金連動型の方は、常に金利が半分になるということですね。当初の10年は0.95%ですが、その半分になりますので、実質的には0.475%です。これによって当初10年間の返済額はJAの預金連動型の方が61万円も安くなります。

住宅ローン控除については両者に差はほとんどないですね。利率が半分になってもローン残高自体は変わらないからです。

そのまま35年借りた場合

(単位:円)

10年固定金利は10年後に繰上げ返済することをお勧めしています。

上の表にある10年後残高について、その後は金利変動リスクを負うからです。あくまでシミュレーションするために今の店頭金利であった場合ということで計算しています。この支払いになるということではありません。

しかし、今回はあくまでシミュレーションとしてそのまま35年間借りた場合、両者にどれだけの差があるかを計算しました。この『差額』については、変わらないはずです。

つまり、

地銀の店頭金利が上がれば、JAの店頭金利だって同じように上がっているだろう。という仮定が置けるということです。

後半では逆転しますが、トータルで預金連動型の方が利息の負担を少なくできるという結果になりました。

では、すこしずつ貯金の割合を減らしていきましょう。

 

最初に住宅ローンの4分の1を定期預金に預けるケース

貯金の残高を4分の1に減らしました。住宅ローンの借入は2,000万円に対して500万円の貯金です。この500万円をずっと維持し続けるという条件です。

当初10年間の比較

(単位:円)

最初の貯金を4分の1にしてもなお、JAの預金連動型の方が25万円有利ですね。前の節ではずっと4分の1を維持するケースで試算しましたが、このシミュレーションはずっと500万円を維持する前提です。

なので住宅ローンの残高が1,000万円未満になるまでは500万円の預金残高がフルに利息の返金の対象になります。

では11年目以降どうなっていくかを見てみましょう。

そのまま35年借りた場合

(単位:円)

後半で逆転されます。35年間のトータルの返済額でほぼ損益分岐点だという結果になりました。

当初10年で25万円のアドバンテージを残したまま、10年固定のセオリー通りに多額の繰上げ返済をすれば、JAの預金連動型の方が有利だという結果になるでしょう。

ではさらに貯金を減らしてシミュレーションしてみます。

 

最初に住宅ローンの8分の1を定期預金に預けるケース

貯金の残高を8分の1に減らしました。住宅ローンの借入は2,000万円に対して250万円の貯金です。この250万円をずっと維持し続けるという条件です。

当初10年間の比較

(単位:円)

貯金が8分の1になると、当初10年でほぼ同じ支払額となりますね。当初10年の損益分岐点です。

ですから、10年固定金利のセオリー通りに多額の繰上げ返済を行うとしても、当初の10年間は250万円の貯金を維持できなければ地銀の10年固定で借りておいた方が支払いは安くなるということです。

一応、11年目から35年目までを比較してみます。

そのまま35年借りた場合

(単位:円)

全期間で69万円も高くなります。

つまり、最低でも最初から住宅ローンの8分の1は貯金しておき、その後多額の繰上げ返済を行わなければ、普通に地銀の10年固定を借りておいた方が良かったということになりますね。

以上、参考になれば幸いです。

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