金利タイプ選びのセオリー
変動金利か固定金利かどっちにする?金利タイプを決める基本的なセオリー
不動産業者は変動金利を勧めます。金利が上がらないとすれば、元利均等返済額を小さく見せられるからです。
銀行の融資担当者は変動金利又は3年又は5年固定金利を勧めます。変動金利を勧める理由は不動産業者と同じ。
3年又は5年固定を勧める理由は3年後ないし5年後は高い金利になって、変動金利よりも多くの利息を儲けられますし、審査も通りやすく、さらに利用者に対しては最も安い金利だと言えるからです。
金利はそんなに上がらないですよ。(たぶん)
こんな風に彼らは言うかもしれません。もちろん彼らがそれを保証するわけではない、ということは言うまでもありません。
住宅ローンは最長35年の超長期の契約です。そして10年を超える将来のことは誰にも予測できません。
そんな状況で35年に及ぶ住宅ローンの金利タイプを決めるのは、高さがわからず、下がどうなってるかもわからない崖から飛び出すのに似ています。
そんな住宅ローンの金利タイプを決めるにあたっては、時代によって左右されることのない、基本的かつ普遍的な考え方=セオリーを知ることが必要です。囲碁や将棋の世界では定石と呼ばれるものです。
変動金利と固定金利を定義する
- 変動金利とは銀行が必要に応じて金利を変動させることが出来る金利タイプ
- 固定金利とは借入期間に亘り金利を固定する金利タイプ
まず、このように定義します。例えば当初固定金利というローンの金利タイプがありますが、これは変動金利です。
決められた当初期間は金利が固定されますが、その期間を経過すると、改めてその時点の金利水準で変動金利か固定金利を選択するかを選ぶタイプです。
そういう意味で『10年固定』はリスクを表す正確な表現ではありません。借入期間に亘ってずーっと金利が固定しているものだけが固定金利なんです。あえてこれを正しく表現をするなら10年経過後変動金利です。
利用者と金融機関のどちらが金利変動リスクを負うか?
変動金利は短期プライムレート(銀行間で資金を融通しあう時の金利)に連動して銀行が金利を上下させることが出来る金利タイプです。
- 銀行が他の銀行からお金を借りる時の金利が低い時は住宅ローンの金利は低くする。
- 銀行が他の銀行からお金を借りる時の金利が高い時は住宅ローンの金利は高くする。
銀行は自分が借りる時の金利よりちょっと高く住宅ローンの金利を設定して、金利が上がっても下がっても確実に利ザヤを得る(儲ける)ことが出来るのです。
固定金利は短期プライムレートが何%になろうが、最後まで金利を変えない金利タイプです。
銀行が貸す金利は一定ですから、場合によっては銀行が逆ザヤになる(損する)可能性もあります。とはいっても銀行は大きな資本があり、資金調達金利を上手に調節して出来るだけ損をしないように出来ます。
- 変動金利=金利変動リスクを自分が負い自分で対応する。
- 固定金利=金利変動リスクを銀行が負い銀行に対応させる。
ですから、この変動と固定の価格差というのは、金利変動リスクへの対応する代金なんです。
当初固定金利のリスクは以下のようになります。
- 予測しやすい当初期間の金利変動リスクを銀行が負い、
- 予測が難しい期間経過後の金利変動リスクを自分が負う。
金利変動リスクを主としてどちらが負うかは自明ですね。自分の方です。ですから当初固定金利は変動金利なんです。しかもずっとそのまま借りたとすると、期間経過後の優遇は減ってしまいトータルの元利均等返済額は変動金利よりも高くなるのが普通です。
固定の期間にリスクをヘッジできますが、それが終わった時点のリスクに対しては、利用者が準備しておく必要があります。むしろ『リスクを取る』人向け、またはこのリスクが『リスクにならないほどお金持ち』な人向けの商品なのです。
変動は静止し固定は動く
禅問答のようですが、これは景気の変動と金利の関係を表現したものです。
- 好景気で収入が増えると、変動金利は上がる。
- 不景気で収入が減ると、変動金利は下がる。
- 景気が良かろうと悪かろうと固定金利は変わらない。
こういうことです。
景気と連動する変動金利
変動金利を誰がコントロールしているのか?一言で答えると日本銀行、略して日銀です。変動金利の指標となる短期プライムレート(略して短プラ)は政府が設定する政策金利の影響を強く受けるのです。
日銀は景気を良くするために投資や消費を促進したいときは政策金利を下げてお金の流通量を増やします。みんなお金を借りて設備投資や住宅購入しようとしますね。これを金融緩和と言います。
反対に景気の過熱を抑制したいときには、投資や消費をしにくくするために政策金利を上げます。これが金融引き締めというものです。
日銀は景気をコントロールする手段として金利をコントロールしているんです。
相対的に「静止」している変動金利
- 好景気でインフレの時は収入も増えてますので金利が高くても負担は大きくありません。
- 逆に不景気でデフレの時は収入は減りますが、金利が低く抑えられているので負担は軽減されています。
今は不景気でデフレ、住宅ローンの変動金利は1%を切ってますね。一方で日本がインフレでバブル期だった頃の住宅ローンの金利は7%位でしたがその負担は同じなんです。 かえって現在の方が閉塞感や将来不安がある分だけ、低い金利でも負担感は大きいんじゃないでしょうか。
変動金利は日銀の操作によって景気と連動する傾向があるので、収入が景気の影響を大きく受ける人にとっては負担を一定にする効果があるのです。
金利は変動してますが、結果的に自分の収入も連動しているので、相対的に自分の目から見たら静止しているということです。
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これはあくまでマクロな視点から見た変動金利です。場合によっては自分の収入が増えず、金利だけが上がる可能性もあります。そこで、私がお勧めするのは以下の方法です。
元利均等返済額の4分の1を貯蓄して月収の4割未満に抑える
変動金利で借りる場合は以下の2つの『4』をクリアすることを推奨しています。
- 毎月の元利均等返済額の4分の1以上を貯金する。
- 上記の貯金と元利均等返済額の合計を収入の4割(40%)未満にする。
この方法は変動金利の共通ルールである5年ルールと125%ルールから導き出されるセオリーです。
5年ルールと125%ルールは、変動金利返済の共通ルールです。変動金利は金利が上昇したらたちまち毎月の元利均等返済額が増えることはありません。5年という猶予と一度に125%という上限があります。
- 5年ルールとは、金利が変動しても5年は元利均等返済額を変えないというルールです。
- 125%ルールとは、1度に上げる元利均等返済額は125%を上限とするというルールです。
しかし注意が必要なのは、返済額がそのままで金利だけが上がると、元本の減りが遅くなるよということです。
また、金利の上限というものもあります。利息制限法で年利15%が上限です。逆に言うと15%までは上がる可能性がゼロとは言えないわけですが。
毎月の返済額の4分の1以上を貯金するということは、今の収入でも銀行が1度に上げる上限の125%に対応可能ということです。
元利均等返済額
100%→5年→125%→5年→156%→5年→195%→…
対応する金利
0.7%→5年→ 2.3%→5年→ 3.6%→5年→ 5.3%→…
このように、最短で15年で約2倍になることもあり得るのですが、返済額が2倍になる場合の変動金利は約5.3%です。これはバブル期の変動金利の水準です。
ここまでになる可能性も否定は出来ませんが、少なくとも一段階上がるケース、125%になるケースについては、想定しておく必要がありますね。
これはだいたいリーマンショック以前の変動金利の水準です。35年もあればこの位の変動(上昇)はあっても全然不思議では無いんです。
4分の1以上を貯金しておけば、1度目の125%の引き上げに無理なく対応可能です。また、それまでの貯金によって借入元本を減らせば、金利が上がった時の負担は軽くなります。
つまり、変動金利を選ぶ場合は、金利変動のリスクに自分で対応するための『自己資本』つまり貯金を厚くしておく必要があるということです。
いざ金利が上がった際に元本を減らすための積立貯金込みで、それ以外の貯蓄(子どもの教育費や老後資金)をする余裕があること、つまり月収の4割未満に抑えられることが条件になります。
これが自分で金利変動リスクに備えるということであり、変動金利が安い理由です。
固定金利は相対的に動いている
固定金利は相対的に動いているというのは、もうお分かりでしょう。
- 好景気のインフレ時には収入は増えても住宅ローンの金利は一定ですから負担は軽くなります。
- 不景気のデフレ時には収入が減っても住宅ローンの金利は一定ですから負担は重くなります。
収入が景気の影響を大きく受ける人にとっての負担を変動させるのが固定金利なのです。つまり公務員のように、収入が景気の影響をあまり受けない人にとっては、負担を一定にする効果があるということです。
変動金利か、固定金利かは自分の収入のタイプに合わせて選ぶと失敗が少ないです。
固定金利はいつ借りるか?が大事
固定金利は借りる時点の国債価格に応じて変動しているんです。ここ最近は毎月上がったり下がったりしています。
いつ借りるかということが固定金利の肝ですね。融資実行日=住宅の引渡し日で、フラット35の金利は月初めに発表された金利がその月に適用されます。
つまり、事前に来月の金利が上がるか、下がるか分かっていれば安い方の金利を選べる局面もあるんですよね。
フラット35であれば月の半ばから20日前後には翌月の適用金利がほぼ正確に予測できます。
公表前の金利が何で分かるのか?
この予測は公表された情報から理論的に導き出される金利です。ズルでも千日が占い師に転向したからでもありません。
フラット35の翌月金利は事前に予測できる
フラット35は住宅金融支援機構という国が運営する団体が銀行の債権を買い取る又は返済を保証するという形になっています。
つまり住宅ローンの利用者が返済出来なくなっても既に国に買い取って貰っているか、国が代わって弁済してくれますから、銀行にリスクはありません。
もちろん住宅金融支援機構は後で利用者に請求しますので銀行は、長い期間でも安心して融資出来るんです。
そういう事で、フラット35の全期間固定金利は国に対する貸付に近い考え方で金利を決める訳です。
国に対する貸付=国債ですね。ですから、その金利は国債の利回りに連動する訳です。結果として民間金融機関の固定金利と同じような動きになります。
また、更に確度の高いデータが、住宅金融支援機構債の表面利率です。毎月20日前後に住宅金融支援機構 次回債情報(月次)で公表されます。
この表面利率は翌月のフラット35の金利の動きとほぼ連動します。これを追っかけて行けば翌月の適用金利が…
上がるか?下がるか?
確実に予測できます。借り入れ日をほんの数日変えることで、より有利な金利で住宅ローンを借りられるという訳です。
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ただ混ぜるだけのミックスローンは損をする
ミックスローンとは、1の住宅を担保にして2つの金銭消費貸借契約を結ぶ銀行の商品(住宅ローンの金利タイプ)です。
こんな謳い文句ですね。
ミックス・ローンで変動金利と固定金利を組み合わせた場合、低金利時のメリットと、金利上昇時の返済負担を抑えるメリットを一定の範囲で得ることができます。
A面(良い面)だけ言ってて、B面(悪い面)を言ってくれないのです。また、金利面だけに言及していて、リスクの面について一切触れていないです。
ミックスローンとは何か?
ミックスローンの本質を掘り下げましょう。ミックスローンを財務的に捉えると以下のようになります。
- 住宅(担保)は一つ
- 借入は2本
分かりやすいですね。しかし、上記はマイホームを処分して返済する場面での考え方です。返済を継続する場面の考え方じゃありませんので、実態に即していないんです。
住宅ローンの利用者が返済する場面で重視すべき、より戦略的なミックスローンの捉え方は以下のようになります。
- 収入は一本
- 金利変動リスクは2種類
つまり、自分の収入の上がり下がりについては、自分一人の浮き沈みによって変動します。サラリーマンなら給料が上がるか下がるかしかないですよね。
これに対して複数の金利タイプで住宅ローンを借りると、金融市場の動向によって複数の動きをする金利変動リスクを負うということになります。
一方が固定金利ならイイじゃん?
と思われた方は、『固定は動いている』という前の節を再度お読みください。
金融機関だけが得するミックスローンを安易に選んではいけない
銀行にとってはミックスローンの方が都合が良いのです。
我々にとって金利変動リスクが2種類ということは、銀行にとっては利益獲得のチャンスが2種類ということになるんですね。立場が逆になりますので。
- 回収不能リスクは一人分
- (利息)収益のタイプは2種類
金融市場の動きによって安定的に利益を出せるのが銀行にとってのミックスローンです。
銀行が損な場合もあるんじゃないの?
と思われる方はこちらをご覧ください。住宅金融支援機構が民間の金融機関に対して行ったアンケート調査の結果が公開されています。
項目 全体 都銀・信託 有効回答数 303 6 変動金利型 55.8% 83.3% 3年固定 23.4% 16.7% 5年固定 17.8% 50.0% 10年固定 65.0% 83.3% 変動固定MIX 14.5% 66.7% その他 2.6% 0.0%
営利企業である、都銀と信託銀行については、特にミックスローンに力を入れているのですね。
一見、有効回答数の6というのは少ないように見えますし、全体としては14.5%です。
しかし、全体のこの割合を引き下げているのは、回答母集団に営利を目的としない信用金庫の数が165もあり、その回答8.5%が引き下げているからなのです。
ですから、『どちらかに決められない』という理由で安易にミックスローンに手を出すと、喜ぶのは銀行だけという結果になるんですね。
普通のサラリーマンならば、収入は月給だけです。したがって、セオリーとしてミックスローンを選ぶのは『無し』ですよ。
以上、参考になれば幸いです。