家を買う(持つ)とはどういうことですか?

2018年10月11日

「その先」が分からない状況で決断しなければならない時

家を買う時はそれこそ、数ある家の中から自分の家を選びますよね。何十という物件情報を検索しますし、住宅ローンのシミュレーションはそれこそ100回以上はやると思います。

そうこうしているうちに、自分が欲しい家、自分に合った住宅ローンが何なのか?分からなくなってきます。私も考えすぎて仕事そっちのけで、知恵熱を出すほど考えました。

それこそ、無数の選択肢が用意されているようでいて「あちらが立てば、こちらが立たず」なんです。そして色んなものをそぎ落としていってやっと幾つかの選択肢に行き着くのですが、そこからがまた大変です。選択肢が減っていくほど、残した要素は大事なものだからです。

まるで、1メートル先も見えない吹雪の中で、酸素も薄い冬山の頂上を目指す登山家のような心境になります。

これは家を買った時だけではありません。その後も、借換を考える時には同じ心境になりますよね。大事な意思決定であればあるほど、その先どうなるか?ということについてちゃんと確度のある情報に基づいて決めたいものです。しかし、住宅ローンについてはそれが無い。

その先どうなるか?

ときにはこれが分からない状況で、重要な意思決定を行うことを迫られます。

千日の住宅ローン無料相談ドットコムは、そんな状況でどうするべきか?という方向を探し当てるコンパスになるようなサイトを目指しています。

人によって、その方向は違いますので、それは自分自身で見つけるしかありません。しかし、そのヒントを提供することは出来ると思っています。

では、今日のご相談者です。

まず奥様からメールを頂き、その翌日の朝にご主人からメールを頂きました。お二人のメールを合体させて、編集してます。

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相談:疾病保障付きの住宅ローンに借り換えるか?今の住宅ローンの利下げがあるので継続するか?

千日さんのブログをいつも拝見してます。よろしくお願いします。

変動から固定(10年固定と20年固定のミックス)への借り換えを考えています。候補が2行あり迷ってます。付帯の保障について悩んでいます。ご意見いただければ幸いです。

購入物件

2015年 土地5600万円、建物4083万円万にて購入。

家族構成と年収、加入している保険

  • 夫38歳 妻34歳 娘3歳、息子0歳
  • 夫(35) 年収1500万
  • 妻(32) 年収500万

妻は2年間は育休で毎年150万円程度、その後1年間500万円程度、その後退職する予定です。現在夫に対して以下の収入保障と終身保険をかけています。

  • メディケア生命、料率区分型収入保障保険(無解約返戻金型)(非喫煙者優良体料率)年金月額25万円、65歳まで、保険料90,855円/年
  • プルデンシャル生命、米国ドル建終身保険10年払込済、死亡10万ドル

そのほかの金融資産:夫1900万円、妻500万円

借換の話をしたら金利を引き下げてきました

以下が現在借りている地銀の条件です。ローンの割合は夫7,262万円、妻738万円(妻が頭金を全て入れたので、持分と出資額を合わせるためにこの割合になりました。)借入期間は35年ですが、繰り上げ返済で残り20年で返す計画です。

  • 8000万円、変動金利0.8%、8大疾病保証付、35年、妻:連帯債務
  • 借入開始:2015年4月
  • 完済予定日:2050年3月
  • 土地と建物の持ち分は夫3/4、妻1/4

現在のローン残高は約7,600万円です。本日、解約を電話で申し出たら稟議が通るか分からないが、これくらい頑張ってみると言ってきました。

  • 変動金利:0.5%~0.47%
  • 当初固定金利10年:0.8%

借換を検討している住宅ローンと疾病保障付の団信(奥様からの相談事項)

妻である私が働いて返せるローンでない為、多くの病気をカバーするのが良いのか、それとも、確率の高いガンのみの保障にして、12ヵ月の就労不能期間がない方がよいのか迷っています。

保障については、計算できるものではなく、自分自身が安心できるものになるため、お答えが難しい質問かと思いますが、既存の地銀が金利を下げると言って来ていることもあり、悩んでいます。

三井住友信託(がん保険付き)

頭金:700万円

借換:6,900万円を下記Mixで

  • 3,450万円 当初固定10年 0.72%(証券口座作ったりで0.75%から0.03%マイナス)
  • 3,450万円 当初固定20年 1.22%(証券口座作ったりで1.25%から0.03%マイナス)

借換費用は保証料を除き約50万円と見込んでいます。

住信SBI(8大疾病付き)(アルヒ経由)

頭金:700万円、

借換:6,900万円を下記Mixで

  • 3,450万円 当初固定10年 8大疾病付 0.56%
  • 3,450万円 当初固定20年 8大疾病付 1.06%

借換費用は融資事務手数料が高いので約150万円と見込んでいます。

返済計画と今後の予定

繰り上げ返済で当初固定10年を約11年で返し当初固定20年を約20年で返済しようと考えてます。

当初固定10年を毎年200万円返済、当初固定10年完済後、当初固定10年の毎月返済額を当初固定20年の毎月の返済に追加して返済すると約20年で返済できる計算です。

審査は全て通っており借換えの本契約の期限が4/11(火)借換え実行日が4/20(木)(地方銀行完済日)の為、4/5(水)の夕方に地銀に借換えの正式申し出、4/7(金)~4/10(月)に借換え銀行と本契約で進めようかと考えております。(地銀の申し出で悩みの選択肢が増えた状況なのですが…)

借換を考えたきっかけ(ご主人からの相談事項)

借入した2015年4月頃は長期固定金利が2%を大きく上回っていたのと、変動金利が過去20年低水準が続いており、今後の日本経済が良くなるということも考えられませんでした。

また、変動金利の利用者が半分以上いる世の中では、この20年で短期プライムレートが著しく上がって、変動金利が2%を超すことは、日本が財政破綻しハイパーインフレでも起こらない限りあり得ないだろうと思い、迷いなく変動金利を選びました。

ところが、長期固定金利がこれだけ下がり、調べてみると前述のような条件で借りれることが分かりました。

この状況がまた来ることは変動金利が高くなるよりもあり得ないだろうと勝手に考えており、昨日時点では、長期の金利の安心とガンかガン保障の弱い8大疾病どちからカバーで、追加コストがかかってもこれが一番安心かなと思い悩んで妻から千日さんにご相談させて頂きました。

ここから本日の利下げの提案が地銀があり、さらに迷いが生じた状況です。

千日さんならどうしますか?(ご夫婦合わせての相談事項)

この1か月程度千日さんのブログやネットの情報を調べ色々考えました。

特に千日さんの仰る通り固定金利の安心とガンにかかったときの安心も買いたいなら三井住友信託が良いとは思うものの、地銀からの利下げの提案はかなり魅力的でこちらが賢い選択なのかもしれないと悶々としている次第です。

がん以外の8大疾病の可能性は極めて低いので、がん保障が弱い住信SBIではなく三井住友信託かと今は考えてます。

とは言え、がんの可能性も家系的には低いと思うのですが…

固定に借り換えるのは安心を買うためなので、ガン保障をあきらめて固定にだけするのも違うのかなと考えてます。

  • 千日さんがご自身であればどうされるか?
  • 私たちのこのような考えであれば何をおすすめされるか?

何かしらアドバイスを頂けると嬉しく思います。

また、間違った考えや、危うい考え、計算もだいぶおかしそうだぞ。というようなことがあればご指摘頂けると幸いです。

回答:まずそれぞれの条件を金額ベースで比較しましょう

ではお答えしていきますね。まずは現在ある選択肢をパターン別に比較して、コスト面と支払い面でどういった違いが出てくるかを見てみましょう。

現在の地銀の条件と金利引き下げ後の条件を比較

  • 地銀の変動金利0.8%を継続
  • 地銀の変動金利が0.5%に引き下げ

コスト面の比較では金利引き下げで334万円費用が節約される

(単位:円)

地銀変動0.8% ご主人 奥様 合計
265カ月支払利息 9,120,730 926,893 10,047,623
住宅ローン控除 -5,000,000 -206,144 -5,206,144
合計 4,120,730 720,750 4,841,480
地銀変動0.5% ご主人 奥様 合計
265カ月支払利息 6,083,082 618,193 6,701,275
住宅ローン控除 -5,000,000 -205,924 -5,205,924
合計 1,083,082 412,268 1,495,350

住宅ローン控除の上限は普通の住宅で40万円/年、長期優良住宅で50万円/年です。ご主人の方のローン残高は7,262万円と多いですが、その1%だと72万円、つまり上限を超えているのです。

税金のセオリー

従って住宅ローン控除を受けられる10年間のローン残高にかかわらず毎年50万円で10年間という前提で計算しています。また、奥様の住宅ローン控除については収入があると見込まれる3年間だけを算定しています。

地銀の利下げによって今よりも334万円の費用を節約することが出来ます。

支払い額の比較

(単位:円)

地銀変動0.8% ご主人 奥様 合計
265カ月支払 52,548,666 5,340,253 57,888,919
住宅ローン控除 -5,000,000 -206,144 -5,206,144
一括返済 29,192,064 2,966,640 32,158,704
合計 76,740,730 8,100,750 84,841,480
地銀変動0.5% ご主人 奥様 合計
265カ月支払 50,331,157 5,114,899 55,446,056
住宅ローン控除 -5,000,000 -205,924 -5,205,924
一括返済 28,371,925 2,883,294 31,255,219
合計 73,703,082 7,792,268 81,495,350

もちろん、支払額で比較しても同じですね。当初の借入残高である8,000万円が全額返済できるシミュレーションになっているかを検算するために作成したものです。

また、2017年4月から20年後の一括返済額を確認する意味もあります。20年間かけて約3千万円の繰上返済資金を貯蓄ということですから、年間150万円の貯蓄で可能となります。詳細な条件を提示いただいておりますので、すでにこれについては、検討されているのであろうと思います。

借換の有力候補を比較

  • 三井住友信託のガン保険付きミックス(10年0.72% 20年1.22%)
  • 住信SBIアルヒ経由の8大疾病保障付きミックス(10年0.56% 20年1.06%)

コスト面の比較では、住信SBIの方が32万円安くなる

(単位:円)

三井住友信託 10年固定 20年固定 合計
支払利息合計 3,445,443 6,176,547 9,621,989
住宅ローン控除 -5,070,580 0 -5,070,580
借換費用 500,000 0 500,000
合計 -1,125,137 6,176,547 5,051,409
住信SBI 10年固定 20年固定 合計
支払利息合計 2,962,863 5,333,156 8,296,019
住宅ローン控除 -5,070,580 0 -5,070,580
借換費用 1,500,000 0 1,500,000
合計 -607,717 5,333,156 4,725,439

借換を機にご主人にローンを集めるという前提にしました。奥様のみの収入では返済不可能な住宅ローンの連帯債務を負わせることは合理的では無いと考えたのと、シミュレーションの便宜のためです。

住宅ローン控除は10年固定と20年固定に分けても意味がないので10年固定の方に寄せています。

住信SBIの方が32万円安く済むという結果です。さらに、現在の地方銀行の変動金利0.8%と比較しても10万円弱安く済むという結果になりました。

支払い額の比較

(単位:円)

三井住友信託 10年固定 20年固定 合計
支払合計 24,048,945 25,410,239 49,459,184
住宅ローン控除 -5,070,580 0 -5,070,580
一括返済 24,896,498 15,266,307 40,162,805
借換費用 500,000 0 500,000
合計 44,374,863 40,676,547 85,051,409
住信SBI 10年固定 20年固定 合計
支払合計 23,752,854 24,788,000 48,540,855
住宅ローン控除 -5,070,580 0 -5,070,580
一括返済 24,710,009 15,045,156 39,755,164
借換費用 1,500,000 0 1,500,000
合計 44,892,283 39,833,156 84,725,439

もちろん、支払額で比較しても同じですね。当初の借入残高である8,000万円が全額返済できるシミュレーションになっているかを検算するために作成したものです。

なお、借換時に入れる約7百万円の「頭金」は10年固定の方に寄せて算定しています。10年固定と20年固定のミックスローンの返済については以下の前提で算定しています。

  • 10年固定:33年ローンで借りて10年後の残高を一括返済する。
  • 20年固定:33年ローンで借りて20年後の残高を一括返済する。

10年固定と20年固定のミックスローンのポイントとは?

ご相談の中では、まとめて一括返済ではなく、コンスタントに多めに繰上げ返済することを想定されていますが、後述するリスクへの対応力という点においては、預金など流動性のある形で置いておく方が安全です。

奥様は3年後には退職されて専業主婦になり2人のお子さんを抱えるわけです。また、そもそも金利が低い上に住宅ローン控除もありますので、ローン残高が多いことによる利息負担増は、かなりセーブされています。

回答:家を買う(持つ)とは何か?という本質に立ち戻る時です

以上、一通りの比較を行いましたので、材料は揃いました。これは、収入保障と終身保険では到底カバーしようのない住宅ローンですね。

ご主人にもしものことがあったら、手放して違うところに住み替えればいい。

これも一つの合理的な考え方です。最終的には家を手放したとしても、母子3人が不自由なく暮らしていける貯蓄を準備しておくことが優先されます。コストが安い方を選ぶのはアリです。

もしもこれがマンションなどの流通性の高い不動産であれば、基本的にコスト面(支払い面)で有利なものを勧めると思います。しかし、注文住宅の一戸建てであり、建築価格から察するにかなり様々な部分にこだわって建てられたものではないかと推測しました。

見ず知らずの千日にメールでご相談されたのは、この愛着のある家を出来れば手放したくはない。という思いが強かったからではないでしょうか。

ならば、もう答えは出ているの思うのです。

上記のシミュレーションをコスト=消えてなくなるもの、と捉えるとそれは削減の対象となります。しかし、本当に必要なものであれば高くても払うべきです。

今後、病気による休業で収入が途絶え、一定期間の間住宅ローンの支払いが滞り、銀行が「この人はもう払えない」と判断すれば、銀行に対して設定していた抵当権が実行され、家を売却した代金で住宅ローンの返済に充てられることになります。

危ないのは病気だけではありません、リストラだってあり得ます。

家族の人生と生活を守るために「貯金」という資産と、その源泉になる「収入」に対して妥協の無い意思決定が求められるのです。家を買うというのは、家族の生活と人生を守る堅牢な容れ物を手に入れることです。

「家」は目に見える不動産としての家だけを言うのではない、と思っています。家族の生活を守るという点で、家に関する保険もまた家の一部なんですよ。子どものために、子ども部屋を作るのと大して変わらないと思っています。

究極の目的は家族の生活を守ることです。家の機能として保険をオンするか?しないか?という選択です。今回は、借換がきっかけではありますが、再度、自分にとっての「家とは?」に向き合う時なのだと思いますよ。

以上、参考になれば幸いです。

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