50代から始まりリタイア後も続く住宅ローンの返済計画とは?

2021年3月2日

年金生活後も継続しなければならない住宅ローンの返済方法

住宅ローンの千日メソッドでは定年退職までに退職金に手を付けずに完済することを目標とするように書いています。しかし、50代から住宅ローンを組む人にそのままこれを実行しろと言ったところで、そのまま実行できる人は極めて少数でしょう。

それに、そういう人は多分私のブログなどは読まないでしょうね。だってそれだけ自己資金が豊富なわけですから、住宅ローンに頭を悩ますこともありません。

また、定年退職までに何らかのアクシデントで完済できない事態に陥ることだってあり得るわけです。そんな人に向かって『定年退職までに退職金に手を付けずに…』なんてお題目を復唱したところで、何にもなりません。

  • 完済しようと思えば完済できる資金を確保しつつ、
  • 年金収入で持続可能な支払いになるよう、65歳の元本を調節する。

これが私の回答です。

年金はこれから減少することが決まったようなものですが、それでも返済可能なレベルまで毎月の返済額を減らすような資金計画を立てれば、家を維持することは可能です。

では、今日のご相談者です。

定年後も住宅ローンの返済を続けつつ老後破産しないための方法とは?-千日のブログ

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相談:50代からの住宅ローンはミックスローンか?

ずっと千日様のブログを参考に勉強して、ついにご相談出来るところまで漕ぎ着けました。

年齢、年収、家の価格、住宅ローン、頭金

夫年齢 54
夫の年収(万円) 1,400
妻年齢 54
妻の年収(万円) 専業主婦
共働きの世帯年収(万円)
家の価格(万円) 4,500
住宅ローン(万円) 4,500
頭金(万円) 0

マンション価格4500万、自己資金2000万、退職金は約2000万(63歳定年、再雇用制度あり)、引き渡しは2018年2月です。スタートの遅れから、年金生活開始後も返済生活は避けられません。

夫婦二人共働き(正規雇用)で年収1400万。子供はいません。ちなみに妻は同い年です。

そこで65歳以降の返済額を抑える方法として、10年固定と20年固定のミックスローンを考えています。

50代からのミックスローンならばどの銀行が良いか?

私は元々固定金利を選択するつもりでした。ただ、変動金利の低さに心惹かれることも事実です。

ご教示頂いた住信SBIも有力候補なのですが、三井住友信託に相談に行った時、気になることを言われ、それ以降一気に三井住友信託に心が傾きました。

  • フラット35S(対象マンションです。)はどこからも借りれなかった場合の最後の砦であり、他の固定商品より総返済額で明らかに劣る。
  • 住信SBIは当行から商品を買っているに過ぎない。であるから変動金利はほんの少し低いが、固定金利は大きく高い。
  • 8大疾病は適用レベルが高く(低く?)実際の適用は厳しい。等々

いろいろ言われましたが、何と言っても私が魅力に感じているのはワンライティングミックス、年金生活に入った時に返済額が減らせることなのです。

自己資金2000万以外にも終身年金型の積立を続けており、累計約1000万、最終積立額が2000万になるよう年180万のペースで積立中です。65歳までは二人とも働く覚悟でいます。

基本的にミックスローンはリスクヘッジとはならないと仰られていましたが、現役の残り10年で貯金に励み、10年満了時点で一括返済し、65歳からはなるべく少額返済として年金生活の負担軽減をしたいと考えています。

このような考え方の是非と、その為のおすすめの銀行をアドバイスいただきたいのです。講演や執筆活動でお忙しいことと思いますが、よろしくご教示ください。

回答①:キーワードは効率性よりも持続可能性です

ではお答えしていきますね。在職老齢年金(働きながら年金を受け取ると年金額の一部又は全部が支給停止される)や高年齢雇用継続給付を受けると年金の一部が支給停止されるなど、年金の支給額は年々減少しています。

老後の安心のために家を買いたい。

このような理由から家の購入に踏み切る人が増えているようです。しかし、家を買う事は必ずしも老後の安心につながるとは限りません。

自分たちが年金を受ける立場になったときに、今の水準で年金の支給を受けられるとは考えにくいですよね。老後資金を残した上で家を買うのであれば、年金収入になった時の住居費の節約につながるでしょう。しかし、家を買ったことによって老後資金が底を尽いてしまったら、むしろ自ら老後破産のリスクを高めてしまいます。

ですから、自己資金を温存しつつ、定年退職後の支払いを少なく抑えて、細く長く継続するという作戦で行きたいと思います。

『細く長く』ということは、利息を長く払うということにもなりますので、いわゆる損得勘定の物差しで考えたら損な方法ということになるのですが、家の購入については、損得よりも持続可能性が優先されると考えています。

方針は2つです。

  1. 今ある自己資金と退職金にはできるだけ手を付けない。
  2. 定年後の支払いは長くなっても良いからとにかく少なくする。

年金は少なくなるとは言え、ゼロになると決まったわけではありませんからね。確かに利息を払うのは費用ですが、ほぼ年金の収入で、家計の見直しによってねん出できるようなレベルであれば、生活に響くことはありません。

そういう意味で10年と20年のミックスローンは適した方法だと思います。現時点で、住宅の購入価格の半額近くの自己資金があります。ということは、10年固定と20年固定のミックスローンを組んで、10年後に10年固定の方だけを完済すれば、残るは20年固定だけということになりますよね。

回答②:10年と20年のミックスローンで定年時に繰上げ返済する方法

但しこの場合のミックスローンの考え方は、わたしが従来紹介してきたミックスローンとは少し違います。

《従来紹介してきたミックスローンの方針》

  • 10年固定は住宅ローン控除が終わる10年後に完済し、それまでは繰上げ返済しない。
  • 11年目からは20年固定だけになる。繰上げ返済も可。

《50代からのミックスローンの方針》

  • 10年固定は住宅ローン控除に関わらず、定年までに完済する。(つまり9年ですが、住宅ローン控除のためにあえて10年とする考え方もアリです)
  • 10年固定を完済すると、20年固定だけになる。定年以降は年金収入で返済を継続できる程度に元本を減らす。それ以降は繰上げ返済しない。

また、自己資金には出来るだけ手をつけないために、あえてフルローンとし、借入期間は最長の期間にします。住宅ローンを組める年齢は80歳未満ですので現在54歳ということはあと25年ですね。

では、10年固定と20年固定の金利が最安の住信SBIネット銀行でやってみましょう。

4500万円を25年元利均等返済で10年固定(0.66%)と20年固定(1.01%)半分ずつミックス

10年固定の方だけを10年後に全額繰上げ返済すれば、残るのは20年固定の方だけですね。つまり、定年後の毎月の返済額は半分となります。

そして、元の自己資金の2000万円のうち、600万円は温存出来ているということです。

(単位:円)

10年後
繰上げ返済
10年固定
0.66%
20年固定
1.01%
毎月返済 81,378 84,898 166,276
10年後残高 13,942,688 14,174,874 28,117,562
繰上げ返済 13,942,688 0 13,942,688
その後毎月返済 0 84,898 84,898

定年後の再雇用での収入は今の時点では分かりませんが、毎月の返済が約半分になりますし、それよりも少なくしたければ、20年固定の方も繰上げ返済して調整すれば、無理のない金額まで減らすことが出来るでしょう。

50代からのミックスローンであれば住信SBIはむしろ最適

あくまで2017年8月時点での金利ですが、10年固定、20年固定ともに三井住友信託銀行よりも住信SBIの方が金利は低いですよ。

金利の比較 10年固定 20年固定
三井住友信託 0.70% 1.05%
住信SBI 0.66% 1.01%

どちらも0.04%ずつ低いですね。これは4500万円借りた場合の当初10年の支払利息の合計にすると約14万円です。ワンライティングミックスローンで節約できる保証取り扱い手数料32400円は、そもそも住信SBIではゼロ円です。両者の違いは印紙代の2万円と司法書士の報酬増分です。トータルで住信SBIの方が安上がりでしょう。

住信SBIは融資手数料2.2%と高く、保証料のように繰上げ返済しても返金が無いのがデメリットとなりますね。少し金利は高くなるが三井住友信託が良い?とも思いますが、三井住友信託は全額繰上げ返済しなければ保証料の返金はありません。

ネット銀行の融資手数料と大手銀行の前払い保証料はだいたい近似しています。完済まで長く引っ張るのであれば、ネット銀行のデメリットは小さくなるのです。

また、住信SBIの団信は、少し前までは8疾病保障でした。病気の範囲が8疾病に限定されている上に1年以上の就業不能状態という条件がとても厳しいため、半ば『気やすめ』のように評価されていた部分もありました。

しかし、現在は全疾病保障となったことで8疾病以外の病気、ケガであっても入院によって1年以上就業不能となれば住宅ローンがゼロ円となる保障にグレードアップしました(ただし精神疾患は除く)。特に病気のリスクが高くなる60代以降も住宅ローンが続くということであれば、加入することでお金では測れないメリットがあると思いますよ。

また、ネット銀行でありながら『SBIマネープラザ』という店舗での相談・受付を行っています。ネット銀行の住宅ローンは実店舗を持たないことで金利を下げているというのがこれまでの見方でした。しかし、こうなってくるともうリアルの銀行と何ら変わらなくなっていますよね。

それでいて金利が安いのですから、利用できるものは利用するべきだと思います。

回答③:変動金利で繰上げ返済しても同様の効果が得られるし、繰上げ返済の金額も柔軟に変更できる

定年時に繰上げ返済して毎月の返済額を減らせば、再雇用で収入が半減しても、またその後、年金収入のみとなってさらに収入が減少しても、支払を継続することが可能ですよね。

なお、繰り上げ返済には二つのタイプがあります。

  • 期間短縮型は繰り上げ返済によって返済期間を短縮するタイプで、毎月の元利均等返済額はそのままです。
  • 返済額軽減型は繰り上げ返済によって毎月の元利均等返済額を減らすタイプで、返済期間はそのままです。

定年後は支払を減らして、無理なく返済を継続することを前提にしていますので、返済額軽減型を選択します。

現在の変動金利で最低金利は、これまた住信SBIの0.444%です。

10年後の定年時の残高は2千7百万円です。このうちの半分を繰上げ返済すると、その後の毎月返済額も約半分になるのです。そして、元の自己資金の2000万円のうち、約600万円は温存出来ているということです。

(単位:円)

10年後に半額
繰上げ返済
変動金利
0.444%
毎月返済 158,507
10年後残高 27,596,925
繰上げ返済 13,798,463
その後毎月返済 79,253

ミックスローンのときとほぼ同じイメージの金額になりますが、少し支払いが少ないです。これはその分、金利変動リスクがあるからですね。

変動金利の場合は返済額の25%を貯蓄した上で手取り月収の4割以下にすることをセオリーとして推奨しております。

住宅ローンのセオリー

しかし、今回その条件は不要です。

なぜか?

2000万円の自己資金を温存していますので、いつでも元本を減らして利息の負担を減らすことが出来るからです。

また5年ルールがありますから、金利が上がっても5年間は返済額は増えませんよね。加えて、当初の10年間は住宅ローン控除があり、年末の住宅ローン残高の1%の税金が還付されますから金利の上昇による負担はかなり相殺されるのです。

定年後の返済額は繰上げ返済額を増やして調節できますね。ミックスローンの場合は10年固定を全額繰上げ返済しなければならなかったのですが、この変動金利の場合はもっと柔軟です。シミュレーションの一例として半分を繰上げ返済しましたが、3分の1にしておくことも可能です。

回答④:10年後はリバースモーゲージという選択肢もある

そして、最後がリバースモーゲージです。

東京スター銀行のリバースモーゲージ(充実人生)という商品があります。自宅を担保に融資を受け、存命中は利息だけを払い死亡後に自宅を処分して元本を返済する仕組みで、海外では欧米を中心にシニア層の自宅の有効活用法として広く利用されているものです。特に東京スター銀行のリバースモーゲージでのメリットは以下の3つです。

  1. 預金連動型なので、預金を上回る部分だけの利息の支払いだけ。
  2.  契約者が死亡しても配偶者に引き継げる。
  3.  一戸建てなら1億円、マンションでも5千万円まで融資可能。

リバースモーゲージに切り替えるには事務手数料と抵当権の抹消費用と設定費用などで概ね30万円位が必要となります。

不動産は「資産」だというのが今の常識ですが、少子高齢化が進行した何十年も先の常識がどうなっているかは分かりません。使用しなくなった家は銀行に処分させることが、合理的な選択になるかもしれませんよ。

なお、リバースモーゲージの金利は変動金利のみです。優遇金利などはなく、店頭金利(3%弱)がそのまま適用される感じです。固定金利は選択できません。終了の時期が予め決められないからですね。

さらに東京スター銀行は預金連動型ですので、預金を預けていれば、その分の利息を払う必要は無いです。かかるのは年間12960円の担保管理料だけとなります。

これが大きな魅力ですね。実際にシミュレーションしてみましょう。

定年時にリバースモーゲージに借り換えた場合のシミュレーション

定年時の9年後の残高でそのままリバースモーゲージします。リバースモーゲージに切り替えるには、一旦残債を完済する必要がありますが、家の担保評価額が住宅ローンの残高を超えていれば、手数料だけで借り換えることが出来ます。

つまり、これから先はこの元本を返済せず、利息だけを支払うということですが、元本と同額の預金を預けていれば利息すら払う必要が無いということです。

そうすると、自己資金の2000万円に殆ど手を付けることなく住宅ローンを継続することが出来、2年目以降かかるのは年間の担保管理料12960円だけです。

(単位:円)

9年後に
リバースモーゲージ
変動金利
0.444%
毎月返済 158,507
9年後残高 29,372,203
リバースモーゲージ借換手数料 300,000
担保管理料(年間) 12,960

元本を返済する必要がなく、利息すら払う必要も無いということですから、これまで挙げた2つ(ミックスローンや変動からの繰上げ返済)とは次元の違うゆとりを感じますよね。

東京スター銀行のリバースモーゲージの注意点

上記のシミュレーションはあくまで存命中のものであり、元本は最終的に家を売却して回収に充てられることになります。

最初にも書いたように「契約者が死亡した後は配偶者に引き継げる」ので、その点は安心ですね。あくまで元本は夫婦両方が他界した後に銀行が家を売却した代金で充てられます。

ですからその家を子供たちに相続させるということは出来ません。なので、リバースモーゲージを組む場合には推定相続人全員の書面での同意が必要になります。

また、リバースモーゲージは自宅の担保価値まで借り入れることが出来ます。その上限としては、最初に書いたように「一戸建てなら1億円、マンションでも5000万円」となっています。そしてその資金の用途は広く、本人又は配偶者の生活にかかる資金であれば何でもOKとなっています(ただし事業目的、投資目的はダメです)。

ですから、医療費や介護費など万が一の時に必要になったら上記の上限の範囲内で何度でも借りることが出来ます。

ただし、自宅の担保価値が上限で年に1回その見直しをしますので、自宅の担保価値が借入額を下回った場合は、下回った部分を1年以内に一括または分割で返済しなければならない点に注意が必要です。

まとめ

思いのほか長くなりました。以上が年金生活まで住宅ローンがずれ込むケースに適する返済計画のご提案です。

今回は住信SBIと東京スター銀行をお勧めしていますが、あくまでメールでお聞きした範囲で私の考えたプランでしかありませんので、最適な選択を保証するものではない、という点をご了承ください。

今回は8月時点の情報に基づいてお答えしていますが、実際に住宅ローン実行のタイミング、定年のタイミングで有利な住宅ローンは変わっている可能性は大いにありえます。めぼしい銀行については、常に最新の情報を入手するようにしてくださいね。

以上、参考になれば幸いです。

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