住宅ローンを借りる銀行と金利タイプを決めるベストなタイミングとは?
住宅ローンを決めるタイミング…営業マンの言いなりになっていないか?
家を探すときに、銀行から先に回る人なんていませんよね。まず、不動産屋やハウスメーカーがスタートになるでしょう。ですから、住宅ローンについて話す一番最初の相手は不動産会社やハウスメーカーの営業マンです。
どういう流れで住宅ローンを借りるのか?
その流れを彼らから教えてもらう、という形になります。しかし、彼らのインセンティブは家を売ることであり、お客の住宅ローンがどんなものであれ、審査に通り確実に代金の支払い手段を確保することにあります。
つまり、
- とにかく早く住宅ローンの審査に通し、ローン契約を結ばせること。
これが、営業マンにとって経済的に合理的な行動です。
一方で、この記事を書いている2017年9月の住宅ローンを取り巻く金利状況は複雑です。8月29日に北朝鮮から発射された弾道ミサイルが北海道上空を通過し、地政学リスクの高まりから長期金利が下がっています。これからどうなるのか?この状況はいつまで続くか?誰も予測がつきません。
- とにかく多くの選択肢を残したまま、ギリギリまでローン契約を引き延ばすこと。
これが、利用者にとって経済的に合理的な行動です。
相談者:半年先の2月に実行予定ですが住宅ローンはどの金利タイプがお勧めですか?
はじめまして。アドバイスが欲しいと思い、メールさせていただきました。
早速ですが。来年2月完成予定のマンションを購入予定です。
3800万で、2000万借りる予定です。
残りは頭金(親のヘルプあり)で。
現在 UFJの変動(固定3年も含む)か、フラット35sのどちらかで悩んでいます。決め手にかけています。
UFJ 変動0.625
固定3年は 0.55 その後-1.8とのこと。
フラットだと来年2月には1.12%前後と不動産の予測。5年優遇なので、-0.5されます。年収は400万です。
千日さんならこの条件ならどちらを選ばれるでしょうか。
来年の2月に引渡しですが、10月上旬にローンの本審査をかけるため、9月上旬までには、ローン会社を決めて欲しいと言われています。
よろしくお願いします。
千日:とにかく銀行を決めたい営業マンの思惑
このメールを見て『ああ、これは性質の悪い営業マンだな』と思いました。
フラット35の金利の予測が1.12%だと不動産会社の営業マンが言ってて、それを目安に住宅ローンの銀行と金利タイプを決めるように言われているんじゃないか?ということです。
住宅ローンというのは、文字通り、家を買う代金を借りるということです。つまり、銀行と我々との間で締結する契約です。不動産会社は契約の当事者ではありません。
家の代金を払うのは引渡しと同時ですよね。つまり、半年先の来年の2月に耳を揃えてお金を払えるのであれば、どのタイミングで住宅ローンを決めようが、不動産会社には何の関係も無いことです。
どんな手段であれ、期日にカネを払えば何の文句も言わせない。
これが契約実務上の不動産会社に対する我々のスタンスなのですが、不動産会社としてはこんな思惑があるのです。
- 他の物件に変えられてしまったら困る=自分の売ろうとしている物件より、さらにお客にとって魅力的な物件が出てきたら困るということです。
- 後で金利が上がって客の気が変わったら困る=金利は日々変動していますが、実行日の金利が適用されます。今は安い金利でもその後上がるかもしれません。その時に『やっぱりやめた』と言われたら困るということです。
なので、このご相談者が『住宅ローンを決めやすいように』来年の2月の金利の予想を提供したのでしょう。しかし、来年の2月といえば、今から約6カ月後です。6カ月後の金利情勢なんて金融の専門家でも予測は不可能です。
十中八九、口から出まかせの予測でしょう。そこで、ご相談者に以下のように聞いてみました。
千日『ご相談ありがとうございます。来年の2月というと、少し先ですが、『不動産の予測』が1.12前後というところ、どんな根拠で言われているのか少し興味があります。よろしければ、もう少し補足頂けますと嬉しいです。』
営業マンの金利予測は何の根拠もなく早く決めてもらうための方便でしかなかった
ほどなく、返信がありました。
相談者『不動産に確認しました。来年のことなので、少し高めで設定しただけです。予測でもなんでもないとのことでした。』
ああ、思ったとおりですよね。つまり、その営業マンは予測でもなんでもないのに、さも根拠のありそうな物言いで具体的な金利を口にし、お客の意思決定を促していたということです。それでいてちょっと、突っ込まれたらすぐボロを出す…あまり性質の良くない営業マンだなと思いました。経験が足りないだけかもしれませんが。
そこで以下のように回答しました。
千日『ありがとうございます。やはりそうですよね、そんな予測が出来れば誰も苦労しません。彼がそういう具体的な数字を口にする背景は、早く決めて欲しいことの表れです。』
千日『2月完成なのに10月に本審査というのは、ちょっと早すぎですね。審査に通らないと代金の回収がままならないということと、気が変わらないうちに周囲を固めたい訳です。』
千日『もう少し補足しますと、今から2月の引き渡しという条件で銀行と金利タイプを決めなければならないというのは、かなり乱暴な話です。対等な立場であれば「ハア?ふざけてんの?」となるような要求ですよ。』
営業マンはおそらく、何かそれらしい理由を付けて回答してくるでしょう。半年前に住宅ローンを決めないといけないというのは、普通に考えてアンフェアですから難色を示すお客もいるはずです。それをうまく切り返すトークは会社のマニュアル的なもので用意しているはずです。
回答が返ってきました。
相談者『2月の引き渡しであれば、その二ヶ月前の金銭消費貸借が一般的です、なので1月頭か12月に契約します、その二ヶ月前に本申し込みを通常行いますので10月です。』
相談者『マンション戸数の兼ね合いで、合同説明会や手続きの兼ね合いで時期を早めにしているとのこと。(購入者の土日でまとめて手続き対応がとれるように)この場合、こちらの手間はない。』
相談者『スケジュールをずらすのも可能だけど、平日に銀行行ってもらったり等、個人で色々動いてもらうことになる。引き渡しに万が一遅れた場合違約金が発生する可能性がある。あくまでも入居者、合同で進めるようにできたスケジュールとのことでした。』
やはり、ですね。
これ、脅しのプロが行う恫喝のセオリーです。相手に自分の言う事を聞かせたいときに行うセオリーです。
間接的な恫喝が最も有効であることを彼らは知っている
正面の理、側面の情、背面の恐怖
中坊公平(1929〜2013)
弁護士の中坊公平氏が人を動かす3ヶ条として語った言葉です。
債権回収の鬼と言われた人の言葉ですから、これは正味の話、債権回収のセオリーなんだと私は思っています。
まず道理を説いて説得する。それでもダメなら情に訴える。最後は、言う通りにしないと恐ろしいことになると恐怖を煽る。言うまでもなく3つ目が決め手になるのだということです。『オイコラ!』なんて声を荒げて脅すのは、下策です。あくまで柔らかな物言いで、こう言えばいいのです。
- 言う通りにしないと、周囲に迷惑がかかる。
- 言う通りにしないと、面倒なことになる。
当てはめるとこんな感じですよね。
- 理:2カ月前の契約が一般的です…←本当は全然道理じゃないのですが、ソレっぽく説明。
- 情:他の入居者もみんな同じ手続きですよ…
- 恐怖:もし勝手なことをしてしくじったら違約金を払うことになるかも…
殆どの人は三つ目で、コロリといくわけです。腹が立ちますよね。
『違約金?恐いなァ…過去に請求した実例があるとおっしゃってるんですよね?恐いなァ…例えば2、3日遅れたとして、どんな経済的損害が御社に生じて、何を根拠に幾らの違約金を請求するのですか?』
『ああ、逆にそちらの引渡しが1日遅れたら、そちらから違約金を払ってもらえるってことでもありますよね?目安として一日幾らでしょうか?こんなこと知りませんでした!ありがとうございます!スゴク大事なことなので、教えてください。』
こんな感じでちょっと突っ込んでやれば『そういうことは今までなかったですけど…』なんて感じで腰砕けになります。そもそも来年2月の金利の予測を口走る辺りで既にわきの甘さを露呈しているのですから。こんな風に突っ込んで来る面倒な客が殆どいないので、成立するトークなんです。
思ったとおり、ストレートに回答しました。
千日『お聞き頂いたことで、当初営業マンが提示したスケジュールがマストでは無いことが分かりましたよね。違約金が発生する場合というのは、契約書に記載した引渡し予定日に引渡しが出来ない場合には、直ちに違約金を払うというような条項を特記事項として記載している場合です。』
千日『日を変更したければ、両者合意のうえ二重線で消してハンコを押せば良いだけの事です。『買えない』ということまでになったら手付金を取られる。これが契約の実務です。』
千日『違約金というのは、脅しですね。まともな不動産屋ならそんなトークはしませんよ。家を買うのに、なんでこんな脅しを受けないといけないのでしょうか?』
6カ月前に住宅ローンを決めるのは目をつぶって飛ぶのと同じこと
ご相談者の置かれた前提で出来るだけベターな回答をすることが、求められていることです。しかし、そもそも答えるべきではないこともあると思っています。
今回のご相談者は、今の時点で6カ月先の住宅ローンを決めなければならない、と言われている状況です。しかし、それよりは決定をギリギリまで遅らせることの方が、よりベターなんですよね。
千日『もともとのご相談は2月の住宅ローンは何がお勧めか?今の時点で決めたいということですが、誠実にお答えするなら、やはり、分からないということになってしまいます。あくまで、不動産会社の言う通りのスケジュールを前提にということであれば、私としてはお答えする事が出来ません。せいぜい、来月、再来月までです。』
千日が住宅ローンを決めた年にはリーマンショックが発生した
このご相談者には、厳しいことを申し上げてしまいましたが、銀行と金利タイプを決めるタイミングというのはとても重要です。私の方から聞いてばかりでしたので、たまには私の話もしましょう。
私が家を購入した時は、2008年のリーマンショックの年でした。
もちろん、そんな未曾有の事件が起こるなんて思いもせずに家を決め、変動か固定か悩みに悩み、銀行はずっと引き延ばしにしました。
新築マンションで、このご相談者と同じく、不動産会社の提携ローンで合同でスケジュールを行うような形態です。
引渡しは2008年11月、そしてリーマンショックの発生は2008年9月15日です。私はリーマンショックが起こって、今後変動金利が当分上がらないと判断し、そこから迷わず変動金利に決めました。つまり、2カ月前くらいにやっと銀行と金利タイプを決めて融資の申込をしたわけです。
判断のタイミングを可能な限りずらしていなければ、当時2%後半くらいだった固定金利で借りていたかもしれません。そうなると35年として約1千万円の違いになります。まあ、そうなればほどなく変動金利に借り換えるのでしょうが、少なくとも何十万という借換費用をロスしたでしょう。
まとめ~融資を決めるタイミングは不動産会社と利益相反するポイント
相談者『貴重な体験談ありがとうございます。融資を決めるタイミングはとても大事と分かってはいたのですが、その時期やスケジュールまでが頭にありませんでした。だから悩んでいたのかと整理もできました。』
相談者『今回相談して、悩むのは悩むけど、スケジュールを伸ばすことが、今できる答えなのだと分かったので、感謝しています。ありがとうございました。』
ここまで、営業マンのことをこき下ろしてきましたけど、別に我々を陥れようとしている悪い奴ということではありません。彼らはただ家を売りたいだけなのです。
とにかく早く住宅ローンの審査に通し、ローン契約を結ばせることが営業マンにとって経済的に合理的な行動です。
とにかく多くの選択肢を残したまま、ギリギリまでローン契約を引き延ばすことが、利用者にとって経済的に合理的な行動です。
住宅ローンを決めるタイミングについては、営業マンの利益と我々の利益は相反しているのだ、という認識を持つ必要があります。つまり、言われたとおりにすると損をするポイントです。彼らにとっては言ったとおりにしてもらいたいポイントです。
そういう自覚を持っていないと、お客様扱いされながら上手にコントロールされてしまうことになります。この部分については、言いなりにはならないという心構えでいるだけで、全然違ってくると思いますよ。