頭金を多く入れるよりも保険で運用した方がトクというのは本当か?

2020年4月18日

家を買うにあたって一般的に住宅の価格の1割くらいを入れると良いと言われています。でも、家を買うには不動産会社に払う仲介手数料や銀行に払う住宅ローン手数料、税金、司法書士への報酬などでかなりのお金が必要になります。

なので、1割くらいの頭金を入れようかなと思って貯蓄をしていた人は、この手数料で手持ちの資金が尽きてしまうことが多いのですよ。

それでも、1割、2割の頭金を入れることが出来る人というのは、家を買うまでに数千万単位の貯蓄が出来ている人です。

私は貯金が苦手な方なので、そういう人達には尊敬の眼差しですね。

一方で、住宅ローンで家を購入すると住宅ローン減税が受けられます。これは年末の住宅ローン残高の1%が所得税等からキャッシュバックされる減税制度です。

なので、頭金を入れられる貯金があるのだけど、あえて当初の10年間は住宅ローンを多めに借りておいて、繰上げ返済も原則行わないという戦略もあります。そして、FPからこんなことを言われることがあるんですよ。

どうせ置いておくなら、遊ばせておくのも勿体ないですから、変額保険で運用しませんか?

今回ご相談者が相談したハウスメーカーのFP談

頭金を幾らにするか?という匙加減は、プロでもなかなか難しいです。そこに付け込んで商品を売りつけようという輩がいますので気を付けてくださいね。アナタの頭金は狙われています。

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住宅ローンの頭金は幾らにする?

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相談:頭金を幾ら入れるのがベストですか?余ったお金は変額保険で運用すべきですか?

もともとは頭金を2000万円ほどいれようと思っていたのですがハウスメーカーでFP相談をした際にもう少し頭金を少なくして変額保険で資金を増やした方がいいと言われ悩んでおります。

家族の年齢と年収 夫39歳640万円(定年60歳)、妻36歳100万円、子供0歳
自己資金の額 2500万円
物件価格 6200万円(土地3200万円建物3000万円)
物件のタイプ 注文住宅2019年12月完成予定
借入予定額 未定
住宅ローン 固定金利が安心なのでアルヒのスーパーフラット8sを利用予定
相談内容 頭金をいくら入れたらよいかで悩んでおります。
貯金を2500万円持っており6200万円の2割の1240万円は入れる予定なのですがもう少し貯金から頭金にしたほうがよいのか、1240万円だけ頭金にして残りは運用などにあてたほうがよいのか…。

回答①:住宅ローンを組むときは誰しも将来に不安を感じるので保険の営業に最適

家を建てるタイミング、住宅ローンを組むタイミングというのは、人生で一番大きな契約をするタイミングです。

将来に不安を感じるのが普通です。 何しろ数千万円という今まで経験したことの無い多額の負債を負うわけですし、今後それを返済する期間は35年という人生の大半を占める期間です。金額にしろ、期間にしろ、今までの経験で身に付けた「だいたいこの位」という物差しを遥かに超えるリスクを負う。それが住宅ローンの不安の正体です。

そうしたタイミングで保険について考え出すと、どうしても掛け過ぎになりがちなのでいったん時間を置いた方が良いと思います。

そもそも、住宅ローンで家を買ったからといってリスクが劇的に増えるわけでは無いと思っています。

今あなたを喪うことは、家族にとって途轍もなく大きな損失と精神的なダメージを伴います。その大きさは測定不能なほどに大きいです。住宅ローンよりも大きなリスクは既に前からあったのです。ただ「考えないようにしていただけ」ではないでしょうか。

住宅ローンを負うということで、そのリスクの一部がローンの金額と返済期間という数値に換算され目に見えやすくなったのです。

リスクが目に見えるようになると、人はそれに対してストレスを感じるんです。それが保険を販売する側にとってのビジネスチャンスです。

「家を買うにあたり保険をリストラする。」これは良いと思います。住宅ローンを借りる際に団体信用生命保険(団信)に加入します。死亡と高度障害によって住宅ローンがゼロ円になりますから、重複する保障を外すことで保険料が安くなりますからね。

しかし、家を買うにあたり「新たに保険に加入する」とか「運用手段として保険に加入する」というのは、一旦保留にしておくべきです。保険は家を買うこととは関係なく入るものだからです。

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回答②:基本に立ち返って入れるべき頭金を検討する

そもそも論ですが「幾らの頭金を入れるべきなのか?」という問いと「この保険に入るべきか?」という問いは別のものです。保険については、後から、外から持ち掛けられたものですから、これは後回しとします。

まずは、この家を購入するのにベストな頭金は幾らなのか?ということが軸です。それで家を買った後に残った場合に、その使い途、運用方法を考えるのが筋です。

では、今回の家をアルヒスーパーフラット8Sで借りるために最低限の2割の頭金(1240万円)を入れるケースと2000万円の頭金を入れるケースで、①資金繰りと②借入費用と③支払総額を比較してみましょう。

頭金以外の条件は以下のようにします。

  • アルヒスーパーフラット8S金利:当初10年0.92%、その後1.17%
  • 40歳スタート借入期間35年、元利均等返済、ボーナス払い無し
  • 定年60歳の残高を一括返済する

①資金繰りの比較シミュレーション

住宅ローンとは何か?と問われたら、私は「毎月決まったお金を35年なら420回銀行に払うことだよ」と答えます。これが定義として正確なものでないことは百も承知ですが、住宅ローンの利用者にとっての真実です。

言い換えれば、これは住宅ローンの資金繰りの側面を言っているものです。資金繰りが頭金1240万円と2000万円でどう違ってくるかをまとめたのが下表です。

(単位:円)

物件価格6200万円 頭金1240万円 頭金2000万円 差額
頭金 12,400,000 20,000,000 -7,600,000
毎月返済 138,172 117,000 21,172
11年目~返済 142,375 120,560 21,815
60歳残高 23,494,274 19,894,331 3,599,943
住宅ローン控除 4,549,700 4,212,000 337,700

頭金1240万円の場合、当初10年の毎月返済は13万8千円です。頭金2000万円の場合は、11万7千円です。

毎月の返済額は手取り月収の4割以下にすることをお勧めしています。ご主人の年収640万の手取り月収を28万円とすると、その4割は11万2千円ですね。奥様の収入が無ければ、どちらもオーバーしていますが、頭金2000万円(毎月11万7千円)の方がどうにかできそうです。

まだ、お子さんが生まれたばかりですし、奥様の収入がゼロとなった場合でもやっていけるようにすべきです。そうすると、頭金を2000万は入れておくべきでしょう。

もう一つ重要なのは定年時の60歳残高です。定年時の残高は1000万以下にすることを推奨しています。どちらも大きくオーバーしていますよね。つまり、人生の後半に大きなリスクのある住宅ローンになっています。

定年時の残高を少なくする方法は2つあります。

  1. 頭金を多く入れる
  2. 年数を短くする

1つ目の頭金を多く入れるというのは、まさに今回2000万円頭金を入れるということですね。これ以上入れるのはキツイです。

2つ目の年数を短くするという方法がありますが、最初から年数を短くするのはお勧めしません。年数は契約で一旦決めるとこれを延長することは出来ません。審査をしてもらって条件を変更してもらわないとダメなのです。そうした条件緩和をすると個人信用情報に記録されて新たにクレジットカードが作れなくなるなどの不利益もあります。

なので、セオリーとしては長く設定しておき、余裕があるときに繰上げ返済して後から年数を短縮していくことをお勧めしています。繰上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」があります。期間短縮型は、繰上げ返済した後の毎月返済額を変えずに、返済回数を短縮する方式です。

なお、住宅ローン控除の金額は頭金が少ない方が33万7千円トクするという結果になりましたが、これは実はロスが多いのです。

住宅ローン控除は天引きされる所得税、住民税からキャッシュバックされるという減税制度です。つまり、自分の所得で納めるべき税金以上にはキャッシュバックされないのです。

年収640万の場合、住宅ローン減税の上限は約40万円です。つまり、住宅ローンの残高では4000万円ですね。これ以上借りていても住宅ローン減税は増えないのですよ。

②借入費用の比較シミュレーション

(単位:円)

物件価格6200万円 頭金1240万円 頭金2000万円 差額
印紙 20,000 20,000 0
登録免許税 49,600 42,000 7,600
事務手数料 1,091,200 924,000 167,200
司法書士報酬 70,000 70,000 0
フラット35物件検査 66,000 66,000 0
合計 1,296,800 1,122,000 174,800

アルヒスーパーフラットの手数料は借入額の2%+税です。なので、借入額が多ければ多いほど借入費用が大きくなります。

借入額が多い方が、住宅ローン減税では33万トクになりますが、借入費用の面では17万損になります。差引で16万円ということになりますね。

これに加えて借入が多いと利息も多くなります。では、総額ではどうなのか?計算してみましょう。

③総支払額の比較シミュレーション

(単位:円)

物件価格6200万円 頭金1240万円 頭金2000万円 差額
借入費用 1,296,800 1,122,000 174,800
頭金 12,400,000 20,000,000 -7,600,000
60歳まで返済額 33,665,640 28,507,200 5,158,440
60歳残高 23,494,274 19,894,331 3,599,943
住宅ローン控除 -4,549,700 -4,212,000 -337,700
合計 66,307,014 65,311,531 995,483

支払総額では頭金2000万円入れた方が、99万5千円少なくなりました。つまり、なんだかんだ言っても借入が少ない方が損得面ではトクということです。

住宅ローン減税で借入が多い方がトクなのは最初の10年までです(その後の3年は建物価格の2%なのでローン残高は関係ありません)。金利がよほど低く、10年後に多額の繰上げ返済をしない限りは、頭金が多い方がトクになります。

頭金の差額と合計の差額に注目してください。

  • 頭金の差額=最初に760万円多く払っているということですね。
  • 合計の差額=最後に総額で99万5千円トクするということです。

つまり、最初に760万円借入を少なくしておくことで、20年間で99万5千円のコストを圧縮できるということを意味します。760万が投資ならば99万5千円が儲けです。

まとめ:頭金は確定利回りの投資です

フラット35で借りる場合は金利は一定です。つまり、このシミュレーションで出てきた利益は現時点で確定しているものなんですよ(自分がちゃんと住宅ローンを維持しているという前提は必要ですが)。

760万円から20年複利で100万の利息を得られる利回りは0.62%です。

つまり、今回のご相談者がこの物件を購入するために頭金を760万円多く入れるということは、20年満期で0.62%の確定利回りの金融商品を買うのと同じことです。

確定と考えれば、十分な利回りだと思いますよ。しかも、この「儲け」には税金はかからず、まるまるキャッシュとして残るのです。

2000万の頭金とすることをお勧めします。

こちらは、私の著書の家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本でご紹介している、無理なく返済できる住宅ローンを見積もる4つのルールです。

  1. 毎月の返済は手取り月収の4割以下でボーナス払いなし
  2. 返済額が一定になる元利均等返済方式
  3. シミュレーションの金利は固定金利(1.38%)
  4. 定年時のローン残高は1000万円以下

良かったら、合わせて読んでみてくださいね、より理解しやすいと思います。

以上、参考になれば幸いです。

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