住宅ローン減税がある間は自己資金は使わず運用に回すべき?
住宅ローンについて調べていくと、住宅ローン減税の恩恵を最大限得ることで、おトクに住宅ローンを借りるテクニックが分かってきます。
住宅ローン減税とは年末の住宅ローン残高の1%を上限として税金が還付される減税制度です。今のように住宅ローンの金利が1%未満という状況下では、むしろ沢山借りた方がおトクになるのですね。
支払う利息<返ってくる税金
こういう大小関係になるからです。そして余ったお金は投信などの運用に回すことで、さらに儲けることができそうです。
そして、繰上げ返済は住宅ローン減税が終わった10年以降に順次やっていくのがおトクです。
しかしこれは、現時点においておそらく正解かもしれない、と思われる方法だとおもっています。全ての人にとって、住宅ローンの全期間を通して、絶対的な正解ではないのです。
今日はそんなご相談者からのご質問です。
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相談:団信加入と不加入どちらが得か?自己資金は温存して株式インデックス運用に回す方が賢いか?
いつもわかりやすいレポートをありがとうございます。以下の前提でご意見いただけないでしょうか。
家族の年齢と年収 | 夫:40歳1000万円、妻:39歳600万円、子:6歳と4歳 |
自己資金の額 | 2000万円 |
物件価格 | 6500万円(土地:4300万円、建物:2200万円) |
物件のタイプ | 土地+注文住宅 2020年3月完成引き渡し予定 |
借入予定額 | 6000万円 |
住宅ローン | 未定ですが、住宅ローンは夫のみでペアローンにはしない予定です。 |
相談内容 | ・団信は入ったほうが良いか(団信利率を自分で計算してみると生命保険を別に契約するよりも団信の方がお得そう) ・自己資金はあまり使わず(諸費用+500万円ほどの頭金)、株式インデックス運用に回し、住宅ローン減税を意識し10年後から繰り上げ返済するのが賢い選択ではないかと思っています。 |
回答①:住宅ローンの意思決定の軸は経済面のアクシデントに対する守りの強さにあり
住宅ローンの意思決定の軸は人によって違うことも有り得るのですが、これから私の考え方を書きます。
これから手に入れようとしている「家」とは土地に定着した建造物であり、そこに住む人の生活の基礎です。家が物理的にその用途に足るものかどうか?については、私の専門外ですが、その家を維持するための資金計画においては私の専門です。
お金が回らなくなれば、その家がどんなに堅牢で使い勝手の良いものであったとしても、出ていかなければならなくなるのです。なので資金計画もまた、住む人を守る家の一部と言っても差支えないでしょう。
ならば、住宅ローンの計画にあたっては、経済面でのアクシデントに強い計画を立てることが一番に求められると思うのです。
「どんな方法が得か?」というのはもちろん重要ですが、何等かの経済的なアクシデントに対して、家族の生活へのダメージが最小限に抑えられる、ということがまず大前提にあって、そのうえでなるべくおトクな方法を選ぼうという感じです。
頭金はローン期間の前半で家を手放すときの保険でもある
例えば、今回のケースで頭金をなるべく入れずに、運用(元本の保証なし)に回すことで利益の面で最大化を図ることができるでしょう。
しかし、住宅ローンの返済期間の間に何等かのアクシデントに遭遇し、手持ちのお金が無くなった時点で家も売却しなければならなくなった際、頭金を入れてなければ、家を失った後も借金が残ります。
ある程度の頭金は入れておいた方が、最悪のケースで助かるんですよね。特に新築戸建ては住んだ瞬間には2割~3割ほど価値が下がると言われます。
その後は立地や建物の状態の良し悪しによって価格に変動がでてくるのですが、ローン残高が多い期間の前半では頭金を入れていないと多くのケースでローン残高が市場の売却相場を上回る残高で推移することになります。
つまり、頭金は「ローン期間の前半で家を手放さなくてはならない事態になったときに、借金を残さないための保険」という面もあるのですよ。
もちろん、家を手放すつもりなんて無いと思います。しかし、それでも売らないとダメな状況というのは、経済的に行き詰っている状況ですね。今の時点では想像もつかない状況ですが、そうした時に備えて資金があるうちに頭金として(いくらか)入れておくということも合理的な意思決定です。
頭金は10%が一つの目安
では、幾ら入れるべきか?というのは、その手持ちの資金でどれだけ儲けられるのかということにもよりますが、サラリーマンの副収入として考える投資と天秤にかけるなら、10%程度が妥当と思います。
10%入れておけば、その額の高利の借金を負うリスクを回避できます。さらに、金融機関では10%の頭金を入れることで、金利を優遇するケースがあります。また、フラット35のように10%の頭金を入れないと金利が高くなってしまうケースがあります。
守りの面でも、住宅ローンの金利(おトク度)の面でもバランスの取れた頭金の割合が10%です。
さらにフラット35の保証型と言われる商品では、頭金を20%以上入れることで金利をさらに引き下げる商品があります。千日のブログでもご紹介している2つの住宅ローンです。
頭金で金利が下がるフラット35(保証型)一番おトクな頭金は何割か?シミュレーションしてみた-千日のブログ
回答②:団信に加入するかしないか?を決めるシミュレーション
団信に加入するかしないか?を決めるにあたっても「経済面のアクシデントに対する守りの強さ」という考え方の軸は同じです。
ただし、多くの保障をつければそれで安心だというような意味ではありません。団信の保障を上乗せするということは、金利に0.2%~0.3%くらいの上乗せとなります。タダではないのですね。
保険料を払いすぎて、貯蓄を減らしてしまっては本末転倒です。貯蓄は自分が貯めた金額が上限ということはありますけど、オールマイティな保険です。
一般の団信については、金融機関のHPには無料と謳っていますが、無料ではありません。実際にいくら払うことになるのかは、フラット35で計算すると明らかになります。
今回はご相談者の例で最もおトクとなるフラット35をベースとして、団信加入と不加入を比較してみましょう。
金利は9月の予想金利です。千日のブログでは毎月フラット35の金利を予想しています。頭金を1割入れるとして、最も低金利なフラット35は以下の二つです。
- (団信不加入)アルヒスーパーフラット9S:当初10年は0.53%その後は0.78%
- (団信加入)住信SBIネット銀行フラット35S(保証型)頭金1割:当初10年は0.74%その後は0.99%
【金利予想】2019年9月のフラット35金利はいよいよ1.1%台を切る!-千日のブログ
アルヒスーパーフラットは団信不加入とすることでフラット35の金利から0.28%の引き下げとなります。そして頭金1割とするとさらに0.05%の引き下げとなり、合計0.33%の引き下げになります。
住信SBIネット銀行のフラット35(保証型)は団信に加入することが条件ですので団信を抜くことは出来ませんが、頭金1割で団信込みでは最も低金利となっています。
金利以外の前提条件は以下の通りとします。
- 35年元利均等返済、ボーナス払いなしとする。
- 60歳の定年まで繰上げ返済せず、60歳の時点で全額繰り上げ返済する。
そしていつも通りですが、「資金繰り面の比較」「借入費用の比較」「総支払額の比較」を行います。
資金繰り面の比較
(単位:円)
物件6500万円 借入5850万円 |
アルヒ9S団信不加入 0.53% 0.78% |
住信SBIフラット保証型 0.74% 0.99% |
差異 |
---|---|---|---|
頭金 | 6,500,000 | 6,500,000 | 0 |
毎月返済 | 153,934 | 158,143 | -4,209 |
11年目~返済 | 156,776 | 162,993 | -6,217 |
10年後残高 | 42,978,848 | 43,301,035 | -322,187 |
60歳残高 | 26,721,906 | 27,254,007 | -532,101 |
毎月の資金繰りでは団信に加入するとしないとでは4~6千円の差ということになります。これが毎月の家計に響くという感じではないですよね。
ただし、ベースとして60歳の残高が大きくなっている点に注意です。これは団信に加入するしないによらず、金額の大きさにリスクがあるということです。
定年にむけて計画的に繰上げ返済資金を増やしていく必要があります。
借入費用の比較
(単位:円)
物件6500万円 借入5850万円 |
アルヒ9S団信不加入 0.53% 0.78% |
住信SBIフラット保証型 0.74% 0.99% |
差異 |
---|---|---|---|
印紙 | 60,000 | 60,000 | 0 |
登録免許税 | 58,500 | 58,500 | 0 |
保証料 | 0 | 0 | 0 |
事務手数料 | 1,263,600 | 1,263,600 | 0 |
司法書士報酬 | 60,000 | 60,000 | 0 |
フラット35物件検査 | 66,000 | 66,000 | 0 |
合計 | 1,508,100 | 1,508,100 | 0 |
借入費用の面でアルヒの団信不加入と住信SBIネット銀行の団信加入で差はありません。
総支払額の比較
(単位:円)
物件6500万円 借入5850万円 |
アルヒ9S団信不加入 0.53% 0.78% |
住信SBIフラット保証型 0.74% 0.99% |
差異 |
---|---|---|---|
借入費用 | 1,508,100 | 1,508,100 | 0 |
頭金 | 6,500,000 | 6,500,000 | 0 |
定年まで返済額 | 37,285,200 | 38,536,320 | -1,251,120 |
定年時残高 | 26,721,906 | 27,254,007 | -532,101 |
住宅ローン減税 | -4,440,000 | -4,440,000 | 0 |
合計 | 67,575,206 | 69,358,427 | -1,783,221 |
総支払額では178万円の差となりました。毎月の差が数千円であっても20年累積すればこのくらいになるということですね。
団信に加入しないことで増える貯金は178万円です。これに対して、団信で保障される金額は最大で当初残高の5850万円、最小で60歳残高の2700万円です。保険という点では団信に加入しておいた方が割が良さそうですよね。
では、団信に加入する代わりに個別に生命保険に入るのはどうでしょうか?団信の保険料は20年で178万円です。ということは、月平均では7430円です。生命保険の見積りをとって比較してみれば、どちらが割が良いかは数字で比較することができますね。
団信は生命保険です。別途自分で保険に加入し、死亡時に住宅ローンの金額が保障されるなら代替可能です。
なお、団信は団体で加入する保険ですから、年齢が若く病気のリスクの低い人も、年齢が高く病気のリスクが高い人も負担が均されるという特徴があります。
40歳ですと、若干団信の方がおトクになる可能性が高いですが、今回のように現時点で実際に選択可能な住宅ローンの商品で比較すると、確実にわかりますね。