自己資金ナシ他のローンがある場合の住宅ローン審査は?
住宅ローンの審査は利用者にとって、ブラックボックスです。落ちる場合にも受かる場合にもその理由を教えてくれることはありません。ただ結果があるのみです。
そこで審査についてはネットでも様々な憶測が流れているのですが、その一つが「他のローン」があると審査で不利になるというものです。「住宅ローンを組む場合は前もって車のローンやカードローンなどは完済しておくべき」という話は誰もが一度は目にしたのではないでしょうか?
確かに他のローンがあるよりは、まったく無い方が有利に見えますよね。
しかし、必ずしもそうとは限らないケースもあります。
私は仕事がら融資をする債権者に対してアドバイスを行うこともありますが、「他のローンの有無」というのは、一言では言い表せない、かなり奥深い世界があるのですよ。
なお、この2020年に発売となりました住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本では、金融機関の審査の裏側について詳しく書いていますのでよかったらお手にとって読んでいただければ嬉しいです。
今日は、住宅ローンを組む段階でカードローンやマイカーローンが残っており、自己資金はほとんど無いという方からのご相談です。
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相談:他ローンが200万アリ、自己資金ナシで夫婦二人で住宅ローンを組む
はじめまして1300万円の中古一戸建てを買いたいと思っております。
夫婦二人で住宅ローンを組みたいのですが、クレジットカードや車ローンがあれば審査は厳しいでしょうか?
家族の年齢と年収 | 夫 42歳 年収 300万 クレジットカード50万(返済 毎月17000円) 車ローン45万(返済 毎月12600円) 妻 44歳 年収270万 クレジットカード30万(返済 毎月8000円) 銀行ローン80万(返済 毎月23000円) |
自己資金の額 | なし |
物件価格 | 約1300万円 |
物件のタイプ | 中古戸建て 1995年完成延床230平米 |
借入予定額 | 約1500万円 |
住宅ローン | 夫婦のペアローン |
相談内容 | 正確ではないと思いますが、該当物件でローン支払いのシュミレーションしたら、ボーナス払い入れて月4万~5万の支払いでした。 今が家賃35000円なのでやれないことはないかと思うのですがまずは審査に通らないと話が進みません。 |
回答:他のローンの住宅ローン審査上の位置づけ
住宅ローンの返済は住居として使用するわたし達の収入によって賄われます。なので、債権者は以下の二つの側面から審査をします。
- 借りる人の信用度と返済能力
- 対象不動産の担保価値
どちらもある一定の水準を満たしていることが必要ですが、どちらかと言うと前者の方が重要視されます。
債権者は、あくまで利息によって儲けたいのです。いくら担保となる不動産の価値が高く、確実に売却して貸金を回収できそうであっても、それを実行するためのコストや手間の方を嫌うのです。
物件を売るのにも手数料がかかりますし、場合によっては裁判も必要になります。元金が回収できたとしても受け取れるはずだった利息収入がなくなるので、彼らにとってはどっちにしても損失なのです。
ですから審査においては、主に次の2点が重要なのです。
- しっかり約定どおりに返済してくれる人間なのか?
- 約定どおりに返済する能力(収入)が確保されているか?
「スーパーホワイト」は住宅ローン詐欺や自己破産を疑われる
実は金融機関もけっこう詐欺の被害にあっています。本当に家に住む目的ではない人に住宅ローンを貸してしまい、そのお金を別の目的(投資や借金返済、事業資金など)に使われてしまい、債務者はほどなくして自己破産してしまうという詐欺です。
自己破産する人は、繰り返す傾向があります。個人信用情報に過去にそうした記録があれば貸さないのですが、その自己破産の記録は5年経過すると消えてしまうのです。
それまでは、お金を借りることができませんから、そうした人の個人信用情報を照会すると、まったく借金をした記録が残っていない真っ白な状態になっています。これを「スーパーホワイト」と呼んでいるのです。
また、過去の借金記録を見られないようにするために、証明書を偽造して偽名を使って借りようとする人もいます。そのような場合、個人信用情報では同じように記録なしの真っ白な状態になります。
もちろん、借金そのものが嫌いで、まったく借金をしない人も同じく記録が真っ白になります。その区別は記録を見ただけでは付かないので、審査をかなり慎重に行うことになります。
他のローンの年間返済額が住宅ローンの審査に与える影響
つまり、常識的な範囲内で借金の記録がある方が、お金を貸す金融機関としては安心なのです。少なくとも、詐欺目的ではなさそうだと判断できます。スマホの割賦購入も借金ですが、むしろこういう借金はあるのが当たり前という見方になります。
さらにその借り入れを約定通りに遅れることなく払っているという記録があれば、「1.しっかり約定どおりに返済してくれる人間なのか?」という審査ポイントにおいて、むしろプラスとなります。
そして、次に「2.約定どおりに返済する能力(収入)が確保されているか?」については、現在借りている他のローンの年間返済額プラスこれから借りる住宅ローンの年間返済額で返済の継続が可能か?という側面から審査を行います。
これを事前に確認するシミュレーターが住宅金融支援機構から提供されています。これで借り入れ可能額が試算できますので、やってみてください。
借り入れがあるとかなり借り入れ可能額が減ってしまいますが、ご相談者の希望する借り入れ額であれば、おおむね借りられそうだという結果になると思います。
注意すべき点は住宅ローンは最長35年という長期の期間にわたるのですが、他のローンも住宅ローンと同じようにずっと続くのだという前提で審査を行うということです。
そのため、他のローンの年間返済額は少なければ少ないほど、多くの借り入れ枠が得られるということになります。
つまり、他の借り入れそのものが原因で住宅ローンに落ちるということは、心配する必要は無いです。借り入れ可能額が少なくなってしまう可能性があるということです。
直前の一括返済は多重債務者の隠蔽工作を疑われる
たまにむやみに他のローンをまとめて全部一括返済しようとする人がいます。そういう行為も個人信用情報に残ります。
こういう場合、債権者は何を疑うかというと、多重債務状態にある人が債務を一本化し、記録の残らない闇金などに手を出しているのではないか?ということです。
特に痛くもない腹を探られることになり、かえって審査を厳しくしてしまう可能性があります。借り入れ可能額が足らなくなるなどの問題があり、他のローンを減らしたい場合には事前に融資の担当者に相談し、こうした詐欺的な意思がないことをわかってもらう必要があります。
そうしたわずらわしさがありますので、前もって少しずつ無理のない範囲で借金を圧縮していくことをお勧めします。
一気に、全部(や大部分)を完済するというような目立つ動きはかえって逆効果となります。
「キャッシング」は「借金癖」を疑われる
他にローンがあるというだけでは、審査にマイナスになりませんがそのローンの種類は大いに影響することがあります。普段の生活が借金なしでは続かないような人という見方をされると、まず審査で落とされます。
そして、そういう人が例外なく利用しているのが「キャッシング」です。
キャッシングを利用していなくても、そのカードにキャッシング機能がついているということで、そのキャッシング枠だけ借金をしていると見なされ審査に落とされた(後日キャッシング機能を無くしてから再チャレンジしたら通った)という例も聞きます。
枠だけで落とすというのは、厳しすぎる気がしますが、カードの使用枠ギリギリまでキャッシングを利用していて、毎月返済の直後にまたキャッシング枠を利用してお金を借り、ずっとカードの使用枠ギリギリまで借り続けている状態であると「明らかに借金癖がある」と認定されるでしょう。
そうなると、かなり審査は厳しいものになると思われます。
まとめ~まずカードローンを完済し購入資金を貯めることをお勧めします
毎月の返済額でシミュレーションすれば、計算上はおおむね可能な結果になるかもしれません。しかし、家賃の支払いと住宅ローンの支払いは位置づけが違ってきます。
住宅ローンの支払いが遅れた場合は、延滞記録として個人信用情報に記録されます。
住宅ローンを払えないということは、お金がピンチということですから、さらに融資を受けたいときに、その延滞記録によってお金を借りることができなくなる可能性があります。
これに対して、家賃の場合はアクシデントによって1回や2回遅れたくらいでは退去させられることはありません。
また、家賃の延滞は個人信用情報に記録されることは無いので、さらに融資を受けることも可能です(ただし大家さんが信販会社系の家賃保証会社を利用していた場合は延滞記録になります)。
現時点においては、自己資金がない上に他のローンの支払いが多く、今後の長い支払い期間の中で収入がストップする事態になったときの対応が難しいように思います。
家を購入する段階では、スマホや車のローンのように、あえて借りることが一般的な借金以外はゼロにし、それに加えて購入手数料プラスアルファくらいの貯蓄があることが望ましいです。
マイホームの購入に必要なのは、冷静な判断と十分な自己資金です。今欲しいという気持ちはわかりますが、資金がマイナスの段階で住宅ローンをスタートするとかなりのハードモードとなります。
今の収入の範囲で家計を見直し、カードローンと銀行借り入れを完済し、車のローンを維持しながら貯蓄を少しずつ増やしていきながら、物件情報や金利情報の収集を続けることをお勧めします。