共働き夫婦の片方が自営業の住宅ローンの組み方
自営業の住宅ローンについてはあまり情報が無いですね。さらに夫婦共働きで片方が自営業というケースに絞った住宅ローンの組み方となると、さらに情報が少ないです。
今回のご相談者は妻が正社員で夫がフリーランスというケースです。ちょっと前提について話しておきましょう。
給与取得者の場合は税金を引く前の額面年収で住宅ローンの借り入れ可能額を計算します。これに対して、自営業の場合は売上から経費を差し引いた所得で借り入れ可能額を計算します。
つまり、サラリーマンのような給与所得者の場合は「売上」を収入と考えて借り入れ可能額を計算するのに対し、自営業者は「売上」から「経費」を差し引いた「利益」を収入と考えて借り入れ可能額を計算することになるのです。
そのため、感覚として同じくらいの収入のレベルであれば、サラリーマンの方が多額の借り入れが可能となるのです。
つまり妻が正社員で夫がフリーランスの場合なら、よほど夫が稼ぎまくっていない限りは、妻の名義で借りる方が多くの借り入れができます。
しかし、妻単独で借りるよりも夫婦共有名義のペアローンにすれば、さらに多く借りることができるかもしれません。さらに住宅ローン控除も一人で受ける場合は一人分の上限ですが、二人で受けるなら上限が2倍に上がります。
ならば、あえて夫婦共有名義のペアローンにするべきなのでしょうか?ではどうぞ!
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相談:外資系高収入の妻とフリーランス夫の住宅ローンは?
はじめまして。自分でも色々調べてみたり著書も拝読させて頂いたのですが、あまり典型的なケースに当てはまらず、どうするのが正解かわからなかったので相談させて頂けますと幸いです。
家族の年齢と年収 | 夫:37歳、フリーランス(開業2018年春)波があるが700万程度 妻(私):35歳、1050万外資IT勤務(入社2017年春~) |
自己資金の額 | 夫婦共有資産:1600万 / 妻個人資産 2000万 |
物件価格 | 7500万くらい予定 |
物件のタイプ | 中古マンションを今年前半あたりに買いたいと思っています。 |
借入予定額 | 未定 |
住宅ローン | ・夫婦共有名義で借りるなら夫:妻=1:2くらいを想定しています。 ・夫は収入額はあるがフリーランスなので、今度の確定申告をすれば2年目なので、フラット35はいけるかもだけどそれ以外は厳しそうです。 ・妻単独で5000万の仮審査(auじぶん銀行)は通りました。繰り上げ返済できそうだし、変動がいいのかな思っています。 ・将来親から贈与してもらえる可能性もややあります。 |
相談内容 | 共働きで夫がフリーランスの場合は、どういう組み合わせでどこからいくら借りるのが良いのかアドバイスお願いします。 ・住宅ローン減税の恩恵も得たいが、手元に現金あった方が良いも聞きます。私たちのケースで妥当な借入額はいくらでしょうか? ・フリーランスの夫にローンを組ませるより、借用書を書いてもらって正社員の妻が単独で借りた方がいいですか? |
回答①:収入に格差のある共働き夫婦のペアローンは収入の少ない方が身の丈を超えたリスクを負う
夫の収入700万円とありますが、独立して最初からこれだけの所得であったならかなりの高収入です。額面年収1000万円の妻との借り入れ割合として夫:妻=1:2と想定されていることから推測するにフリーランスの夫の年収700万円は所得ではなく売上という前提で考えました。
そこでまずはフリーランスは横においておいて、収入格差のある共働き夫婦の住宅ローンという切り口から解説します。
ご相談を頂いた時点ではまだ発売しておりませんでしたが、この2月に発売となりました著書住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本には共働き夫婦の住宅ローンについて、前作はもちろんのこと、このエントリーよりも詳しく解説しておりますので、よかったら読んでみてください。
財産分与は持ち分とは関係なく半分ずつ
誰もが離婚しないと思って家を買いますが、統計上は毎年3組に1組が離婚しています。離婚した元夫婦は婚姻生活上で築いた財産を分け、清算しなければなりません(財産分与)。財産分与は、原則として2分の1で分け、双方の収入の大小によらないこととされています。
つまり夫:妻=1:2で借りて実際にその割合で住宅ローンを返済していても、離婚して分けるときは半分ずつです。そして家は物理的に2つに分けられませんので、財産分与の具体的な方法は以下の2択となります。
- ①第三者に家を売却して、売却益を半分ずつに分ける
- ②どちらか一方が家を取得し、不動産価値の半額相当分の代償金を払う。
①の場合は、不動産仲介会社を通して持ち家を売却し、その売却代金から不動産仲介会社への手数料や税金を支払います。住宅ローンが残っている場合は住宅ローンを完済します。それで最後に残ったお金を夫婦で半分ずつ分与することになります。
売却代金よりも住宅ローンが多い(オーバーローン)の場合は、夫婦の貯金で補填しなければなりません。それでもお金が足りない場合は住宅ローンの名義人となっている方がキャッシングなどの借金をして完済しなければ家を売却することはできません。
②の場合は、不動産仲介会社などで算出された家の売却査定額を基に不動産の価値を合意し、この2分の1にあたる代償金を、家を取得する方がもう一方へ支払うことになります。
家を取得する側にとっては支払う代償金を安くしたいので安い査定額を望みますが、代償金をもらう側は、高額な査定を望みます。双方の利害が対立しますので、揉めるポイントですね。
ペアローンで収入が少ない方が負うリスクとは?
収入に格差のある共働き夫婦がペアローンで住宅ローンを組む場合を想定して、単独名義で住宅ローンを組む場合と比較してリスクがどう違うのか解説します。
収入が多い妻にとっては、単独名義で借りる場合と比較してほとんど何も変わりません。一部を夫名義で借りるとしても、連帯債務もしくは連帯保証によって住宅ローンの100%の返済義務を負っているからです。
離婚した場合の財産分与では、オーバーローンにならなければ売却益を2分の1ずつ分与されるのは共有名義でも単独名義でも同じです。もしオーバーローンになって手持ちの現金で足りない場合には、自分の方がキャッシングしなければなりませんが、それは単独名義でも同じことです。
これに対して収入が少ない夫にとっては、妻の単独名義で借りる場合と比較にならないほどの大きな責任を負うことになります。連帯債務もしくは連帯保証によって住宅ローンの100%の返済義務を負っているからです。この責任は妻の単独名義で借りる場合には全く無かったものです。
離婚した場合の財産分与では、オーバーローンにならなければ売却益を2分の1ずつ分与されるのは共有名義でも単独名義でも同じことです。もしオーバーローンになって手持ちの現金で足りない場合には、高金利の借入をしなければなりませんが、半分ずつの負担で借りたとしても利息の負担が大きいのは収入の少ない夫の方です。
収入の少ない方が明らかにキャパを超えたリスクを負う
ペアローンの場合、夫婦それぞれが住宅ローンによって負うリスクの総量は、連帯債務や連帯保証によって、どちらも同じになります。
収入が違うのに負うものが同じということは、公平ということではなく、収入が少ない方にとって明らかにキャパを超えたリスクになっているということです。
夫の方は最近フリーランスになったばかりであるため、今の収入は少ないが今後は妻よりも増えていくだろう。また妻の収入があるからこそ、フリーランスになれる部分もある。今から相応の責任を負ってもらわないとバランスが取れない。
こういう考え方もあるでしょう。
ご相談者の奥様にとっては、ペアローンでも単独でも大した違いはありません。むしろご主人の利害に大きな違いが生じる部分です。ご夫婦で本を読んでいただき、熟考の上決めることをお勧めします。
回答②:フリーランスにとっての住宅ローン控除はサラリーマンほど魅力はない
ペアローンにするメリットの一つに住宅ローン控除を2人分受けられるというのがあります。住宅ローン控除については詳しくはこちらをどうぞ。なお、金融機関からの借り入れでなければ住宅ローン控除は受けられませんので、夫に借用書を書いてもらっても、夫の分の住宅ローン控除は受けられません。
住宅ローン控除の条件をわかりやすく説明|新築,中古,増改築-千日のブログへのリンク
一般の中古住宅の場合は、年25万円が上限です。なので、住宅ローンの金額に直すと、2500万円が上限ということになりますね。夫婦がそれぞれ25万円まで受けられるとすると、5000万円が上限ということになるでしょう。
ただ、この住宅ローン控除は税額控除ということがポイントです。税金は売上から経費を差し引いた所得に税率を乗じて計算します。自営業の場合は、サラリーマンと異なり、自分の裁量で計上できる経費の範囲がすごく広いのですよね。
例えば、車の購入代金(減価償却費orリース料)や駐車場、仕事で使うようなPCや通信費なども事業上必要な範囲で経費にできます。そうやって節税対策で経費を計上して所得を小さくすると、税額も小さくなります。
サラリーマンの場合はこうした経費の計上ができないので、住宅ローン控除で節税するというのがすごく効いてくるんですが、自営業の場合は経費を計上することで所得を小さくし、節税するという手段があります。節税しすぎて赤字になったら、それを翌年以降の経費として繰り越し(繰越欠損金)翌年以降の税金を安くするという処理もできます。
その点、住宅ローン控除は赤字によって税金が発生しなかったときには、次に繰り越すということはできません。赤字決算があり得ないサラリーマンにはそういう点はデメリットにはならないのですが、特に開業間もない自営業の場合は、最初は赤字もあり得ます。住宅ローン控除は繰り越せないという点で結構なデメリットです。
そのため、自営業の夫に住宅ローン控除を受けさせてというのは、サラリーマンほどのメリットにはならないのです。自営業の夫の住宅ローン控除は度外視して、サラリーマンの妻の住宅ローン控除を使いきれるならそれで充分だと思います。
まとめ~ペアローンは二人の人質を差し出すということ
今回のケースでは、奥様単独で住宅ローンを借りることができますし、夫単独でも住宅ローンを借りることができます。
ただし購入できる家の価格としては奥様単独で借りる方が高くなるでしょう。お二人の世帯の所得としてもバランスが取れているのは奥様の名義で借りる住宅ローンです。
文字数の関係でいくらの金額が妥当かということを詳しく書けませんでしたが、妻の立場として、あえてフルローンで借りる合理的な理由があります。結婚前に貯金した個人財産の2000万円を結婚後に購入するマンションに入れると、離婚した場合に財産分与を通じて半分の1000万円を元夫にとられるからです。
そのほかの共働き夫婦の住宅ローン金額の決め方などについては、著書の住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本にも書いていますので参考にしてください。
単独で借りられる住宅ローンをあえて二人の名義で借りるべきか?というと答えはNOです。債務の名義人になるということはいわば人質です。一人の人質で済むのに、あえて二人差し出すなんて債権者が喜ぶだけです。債務者側には何のメリットもありません。
私は金勘定の専門家ですので、損得という物差しでお答えしますが、純粋に損得だけで決めるものでもないと思います。これを踏まえてよく話し合って決めてくださいね。