住宅兼店舗の住宅ローンを借りる場合の注意点は?
住宅ローンは住居として使用することを前提として低金利で融資するものですので、住宅兼店舗の場合は融資を断られることもあります。ただし、フラット35の場合は以下の4つすべての条件にあてはまる場合は、融資の対象となります。
なお、住宅ローンを借りられる場合でも、融資の対象は住宅部分の建設費または購入価額以内に限られ、店舗の部分はあくまで対象外ですので注意が必要です。
- 住宅部分の床面積が全体の1/2以上であること
- 店舗や事務所の部分は申込本人または同居者が生計を営むために自己使用するものであること
※ 店舗や事務所の部分の具体的用途には、事務所、日用品販売、食堂、理容院、クリーニング店、学習塾などが挙げられます(賃貸するものは借入れの対象になりません。)。
※ 自己使用には、申込本人または同居者が経営する法人に無償で貸し付ける場合を含みます。 - 「住宅部分」と「店舗や事務所の部分」との間が壁、建具などで区画されており、原則として相互に行き来できる建て方であること
- 「住宅部分」と「店舗や事務所の部分」を一つの建物として登記(一体登記)できること
今日はフラット35で住宅兼カフェの住宅ローンを借りる方からのご相談です。回答は千日太郎YouTubeチャンネルで行っています。チャンネル登録と更新通知(すべて)を設定すれば最新の動画を見逃しません。
店舗兼住宅の住宅ローンの注意点とは?|千日太郎YouTube動画
YouTubeでは主に質的な側面から回答しています。データの分析や量的な側面からの解説については、こちらのブログの記事を参照してください。
相談者のデータ(年齢、年収、自己資金、物件価格、借入金額など)
家族の年齢と年収 | 夫 :40歳 地方公務員 年収550万 妻 :36歳 パートアルバイト 年収80万 |
自己資金の額 | 夫: 預貯金 1500万 親援助予定 700万 妻: 預貯金 150万(開業資金支払い後) |
物件価格 | 3750万円(土地:500万と250万は現金で支払い済み。店舗兼住宅の建築費用3000万の予定。) |
物件のタイプ | 店舗兼住宅(客席6席程度の小さなカフェ) |
借入予定額 | 住宅面積按分の2791万円を対象に住宅ローンを組む予定ですが頭金が決まっていません。(店舗面積按分の959万円は自己資金) |
住宅ローン | アルヒ―スーパーフラット(健康上の理由から団信抜き)が第一候補です。 職場と提携している生命保険で死亡保障2000万に加入済みです。 |
相談内容 | 1.アルヒスーパーフラットが第一候補で問題ないか? 2.スーパーフラット6・7・8・9のどれが良いのか? 3.店舗兼住宅という特殊なケースだが気をつける事はないか? |
回答①団信抜きならアルヒスーパーフラットが最適
まず、最初に結論から言いますと、団信に不加入とするならアルヒのスーパーフラットが最もお勧めです(2020年3月6日時点)。以下にその理由を述べます。
フラット35買取型は団信不加入で-0.2ポイント
民間の住宅ローンの場合、団信への加入が必須となりますので健康上の理由から団信に加入できないと住宅ローンを利用することができません。もしくは健康状態の条件を緩和したワイド団信に加入する必要があります。ワイド団信の保険料は金利に0.2~0.3ポイントほど上乗せとなってしまいます。
しかし、フラット35の「買取型」については、団信不加入とすることができます。「買取型」は住宅金融支援機構が金融機関を債権を買い取るスキームとなっており、最終的に住宅金融支援機構が債権者になるものです。
この「買取型」で団信不加入とした場合は、団信込みの金利から0.2ポイント金利が引き下げになります。2020年3月の金利ですと下記のようになります。
フラット35買取型 2020年3月 | 団信込み | 団信抜き |
21年~35年 | 1.24% | 1.04% |
保証型のアルヒスーパーフラットは-0.28ポイント
アルヒのスーパーフラットは、「保証型」に分類される商品です。「保証型」は住宅金融支援機構が債権を保証するスキームとなっており、最終的にも金融機関が債権者になるものです。
金融機関が債権者ですから、その金融機関の独自色を出せる面があります。ます。アルヒのスーパーフラットは頭金を多く入れることで金利が引き下げになる商品です。そして同時に団信不加入とすると、団信込みの金利から0.28ポイント金利が引き下げになります。
2020年3月の金利ですと下記のようになります。明らかに買取型よりも低金利ですよね。変動金利か?と思うほどの低金利です。これは頭金を多く入れることで金利が引き下げとなるうえに、団信不加入の金利引き下げが0.28ポイントと大きいためです。
フラット35保証型 2020年3月 |
団信込み | 団信抜き | Sの当初5年又は10年 | 頭金 |
ARUHIスーパーフラット9 | 1.19% | 0.91% | 団信抜き0.66% | 1割 |
ARUHIスーパーフラット8 | 1.14% | 0.86% | 団信抜き0.61% | 2割 |
ARUHIスーパーフラット7 | 1.09% | 0.81% | 団信抜き0.56% | 3割 |
ARUHIスーパーフラット6 | 1.04% | 0.76% | 団信抜き0.51% | 4割 |
つまり、団信に加入できない場合にはアルヒスーパーフラットが最適といえるのですね。
回答②スーパーフラット6、7、8、9のどれがいいか?のシミュレーション
ではスーパーフラット6から9のどれが最適なのか?シミュレーションしてみましょう。住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本でも詳しく解説していますが、住宅ローンのシミュレーションは3つの判断を行うことが目的です。
- 資金繰り:返済中の持続可能性と老後の持続可能性
- 借入費用:最初の借入コスト
- 総支払額:トータルの損得勘定
資金繰り面のシミュレーション
(単位:円)
アルヒスーパーフラットS 物件3750万円 | 頭金1割 2511万円 0.66%→0.91% | 頭金2割 2232万円 0.61%→0.86% | 頭金3割 1953万円 0.56%→0.81% | 頭金4割 1674万円 0.51%→0.76% |
店舗部分 | 9,590,000 | 9,590,000 | 9,590,000 | 9,590,000 |
頭金 | 2,800,000 | 5,590,000 | 8,380,000 | 11,170,000 |
10年の毎月返済 | 66,972 | 59,031 | 51,216 | 43,528 |
11年目~毎月返済 | 69,034 | 60,851 | 52,799 | 44,877 |
20年後残高 | 11,611,291 | 10,272,806 | 8,946,520 | 7,632,167 |
- 店舗部分と頭金は自己資金から出す必要があります。この資金があるか?
- そして毎月の返済額に無理はないか?
- 20年後に定年ですが、その残高に無理はないか?
という3つの視点から判断します。ご主人の貯金が1500万でさらに親からの援助が700万、奥様の貯金が150万ありますから、合計2350万円という潤沢な自己資金があります。
毎月の返済額は一番多くても7万円弱ですので、問題なさそうですね。
そして定年時の残高では、スーパーフラット9と8では1000万を超えていますが、このくらいであれば許容範囲です。さらに上記のシミュレーションでは定年を60歳としており、公務員の定年が65歳に延長されれればどのプランでも1000万未満となります。
資金繰りの面ではスーパーフラット6から9のどれも可能でしょう。
借入費用のシミュレーション
(単位:円)
アルヒスーパーフラットS 物件3750万円 | 頭金1割 2511万円 0.66%→0.91% | 頭金2割 2232万円 0.61%→0.86% | 頭金3割 1953万円 0.56%→0.81% | 頭金4割 1674万円 0.51%→0.76% |
印紙 | 20,200 | 20,200 | 20,200 | 20,200 |
登録免許税 | 25,110 | 22,320 | 19,530 | 16,740 |
事務手数料 | 552,420 | 491,040 | 429,660 | 368,280 |
司法書士報酬 | 60,000 | 60,000 | 60,000 | 60,000 |
その他 | 55,000 | 55,000 | 55,000 | 55,000 |
合計 | 739,930 | 675,760 | 611,590 | 547,420 |
同じ金融機関での比較ですから当然ですが、借入費用で有意な差にはなりません。では総額で比較してみましょう。
総支払額の比較シミュレーション
(単位:円)
アルヒスーパーフラットS 物件3750万円 | 頭金1割 2511万円 0.66%→0.91% | 頭金2割 2232万円 0.61%→0.86% | 頭金3割 1953万円 0.56%→0.81% | 頭金4割 1674万円 0.51%→0.76% |
借入費用 | 739,930 | 675,760 | 611,590 | 547,420 |
店舗部分+頭金 | 12,390,000 | 15,180,000 | 17,970,000 | 20,760,000 |
20年返済額 | 16,320,720 | 14,385,840 | 12,481,800 | 10,608,600 |
20年後残高 | 11,611,291 | 10,272,806 | 8,946,520 | 7,632,167 |
住宅ローン減税 | -2,601,900 | -2,360,500 | -2,067,400 | -1,769,300 |
合計 | 38,460,041 | 38,153,906 | 37,942,510 | 37,778,887 |
頭金による差 | 0 | -306,135 | -517,531 | -681,154 |
総支払額の差もそれほど大きくはなりませんした。ある程度資金を残しておいた方が資金面では安全ということもあります。総支払額で僅差なのであれば、あえてたくさん借りておく方がお得といえます。
つまり1割で十分です。
ポリシーとして借り入れは少なくしたい、多く頭金を入れたいという観点で言えば、1割と2割の差が一番大きくて30万円です。頭金2割のスーパーフラット8くらいまでにしておくのが良いと思います。
回答③最初は100%住居とし、後から一部を事業用に転用するとどうなるか?
今回は最初から住宅兼店舗という前提で審査に臨むケースですが、当初は100%住居として建てた家を後から一部を店舗にリフォームするケースもあります。
今回のケースでも6席のカフェというと、少し広めのリビングくらいなので最初は100%住居として融資を申請するという選択もあり得ます。
その場合はどうなるか?というと、対象の建物を当初の目的(住居)とは違う目的で使用するということなので、申し込んだ金融機関にその申し出を行う必要があります。黙って開業しますと、契約違反となり最悪の場合は全額返済を求められることがあります。
では、いかなる場合も全額返済になるのでしょうか?気になりますよね。
試しにフラット35を取り扱う住宅金融支援機構や主要な金融機関にその質問を投げかけてみました。以下は電話でのヒアリング内容と千日太郎の補足です。
買取型:住宅金融支援機構の場合
まず、買取型の場合に最終的に債権者となる住宅金融支援機構です。
電話でのヒアリング
質問:フラット35で借り入れた後に住居の一部を事業用に変更した場合どうなりますか?
回答:住居の一部を事業用に用途変更する場合は、取り扱い金融機関に申し出てください。その金融機関から連絡を受けてこちらで判断し、最悪の場合は全額一括返済していただくこともあります。
質問:それは一切の例外なく全額一括返済ということですか?
回答:それはケースバイケースとなります。実際にその時の状況を確認してからでないとお答えできません。
千日による補足
ちなみに、フラット35の契約書には、借入資金を当初の目的の用途以外に使用した場合は全額一括返済になるという条項があります。個別の実態を見て明らかにアウトとなる場合とセーフになる場合があり、その明確な線引きは無いということです。
保証型:アルヒスーパーフラットの場合
次に保証型です。保証型は各金融機関が債権者ですので、アルヒのスーパーフラットの場合について聞いてみました。
電話でのヒアリング
質問:スーパーフラットで借り入れた後に住居の一部を事業用に変更した場合はどうなりますか?
回答:その事業用に変更した部分については居住用ではなくなりますので、事業用に用途変更した部分を一括返済していただくことになります。残りの部分はそのまま継続していただけます。
千日による補足
住宅金融支援機構は全額を一括返済でしたが、アルヒでは事業用に変更した部分だけを一括返済という回答が来ました。やはり、金融機関の独自性が出ていますね。
保証型:住信SBIネット銀行フラット35保証型の場合
もう一つ、保証型を取り扱っている住信SBIネット銀行でも同じ質問をしてみました。
電話でのヒアリング
質問:住信SBIネット銀行のフラット35保証型で借り入れた後に住居の一部を事業用に変更した場合はどうなりますか?
回答:事業用に変更された部分の実態を確認させていただきまして、その状況に応じてご相談となります。
質問:要するに全額一括返済になるということでしょうか?
回答:必ずそうなるとは決まっていません。あくまで実態を確認して個別に判断となります。
質問:実態の確認のために現場を見にきていただけるのですか?
回答:直接見にいくということはあまりございません。主にご申告いただいた内容によって対応を判断しております。
千日による補足
住信SBIについては、あまり具体的な話は聞きだせなかったのですが、どちらかというと住宅金融支援機構に近い対応かなと思いました。
債権者の同意がポイントだが…
結局のところ、店舗に転用する場合は住居ではなくなるので、その実態を個別に判断したいということなんですよ。ということは、後から転用する場合は話の持っていき方によってはセーフになる可能性もあるということです。
アルヒ以外は「絶対に一括返済になるとは限らない」と回答しているのですから、一部を店舗に用途変更してそのまま住宅ローンを借りている人がいることはうかがえます。
住宅ローンは契約ですので、相手が合意すればOKになりうるのです。
しかし、どういうケースならば同意してもらえるかが将来の時点で明らかにならない限りは、ちょっと危ない橋ですね。基本的にお勧めしません。
住宅ローン控除は受けられません
もし仮に店舗に用途変更して、そのまま住宅ローンを借り続けられたとして、問題になってくるのは住宅ローン控除ですね。
住宅ローンで借りているのだから当然に住宅ローン控除も受けられるだろう、と思うかもしれませんが、それはダメです。
債権者との関係で住宅ローンの金利でいいですよ、ということになっただけであり、税務署がOKと判断したわけではないからです。それとこれとは別ということですね。
そして、税務署はできるだけ税金を取りたいのです、その部分を店舗に変更しましたと言った時点で「じゃあ、その部分については住宅ローン控除は受けられません」と即答されます。なお、住居部分については引き続き住宅ローン控除を受けられます。
店舗に転用したことを黙って住宅ローン控除を受け続けると、それはれっきとした脱税ですよ。くれぐれも気を付けてくださいね。